Tokyo University of the Arts, The University Art Museum, Toride Annex Storage

東京藝術大学大学美術館取手収蔵棟

Makoto Yokomizo
29. 10月 2024
All photos Neoplus Sixten Inc.
敷地は茨城県取手市の東京藝術大学取手キャンパス。利根川の自然堤防を成す丘陵地にある。
奥に六角鬼丈の設計で1994年竣工の「東京藝術大学大学美術館 取手館」が見えるが、30年経ちその藝術資料収蔵能力が限界を超えたため、新たに収蔵棟が建設された。

藝大の藝術資料は国宝や重要文化財も含め30,000点以上ある。そのうち毎年美術学部各科の優秀な卒業制作や修了制作を大学が買い上げる制度による作品が10,000点以上あり、その数は毎年増え続けている。
それら学生の買い上げ作品のほか、楽器資料などを収蔵するのがこの収蔵庫だ。
東面
藝術資料収蔵棟としての機能を満たすため、出入り口や開口は極力排除された建物となる。セキュリティはもちろんのこと内部の温度や湿度を最適な状態に維持するためだ。
しかしこのままでは“ただの箱”になってしまうので、正面下部にガラスのスリットを入れ、逆に普段見せることのない機械室を見せている。これにより建物が軽やかに見え、人が寄っていく効果がある。
あたかもヨコミゾさんの署名のように一部に真っ赤な差し色が入り、周囲の緑に映える。
奥に進むと美術館(本館と呼ぶ)に伸びる渡り廊下が見えてくる。
30年の時を超え、六角建築とヨコミゾ建築が繋がる。渡り廊下はどちらの建築にも属さない抽象的な存在。
本館は計画当初から30年後くらいには収蔵能力が限界を迎えるということは予測されていたため、将来拡張されることが前提で壁には鉄扉と庇が設けられていた。
1994年竣工時の本館
「将来ここにどんな建築が接続するのかな?」といった六角鬼丈の問いかけでもあった。
(©東京藝術大学)
西面には垂直の出っ張りがある。
これは収蔵棟唯一の “装飾” である雨樋。この巨大な竪樋1本で屋上の雨水を流している。
収蔵棟へは本館より渡り廊下を通って入る。
「東京藝術大学大学美術館 取手館」ポストモダニズムの建築家らしいデザイン。
この建物の主目的は上野キャンパスの収蔵能力不足を補うために建設された。
1階多目的ホール。展覧会や演奏会、講演会、イベントなどのスペースだが、ここにも収蔵作品が溢れていて、その機能をなかなか果たせずにいたそうだ。
2・3階は収蔵庫と撮影室となる。
1階バックヤード。ここから作品が搬出入される。
貨物用エレベーターで2階へ。
2階渡り廊下で新しい収蔵棟へ。
本館と収蔵棟は敷地の関係で配置角度が15度違うため、渡り廊下は斜めに接続している。
振り返ると前述した扉と、外壁の一部も覗いている。
収蔵棟3階エレベーターホール
真っ黒な空間とし、収蔵庫へ入る前に視覚をリセットさせる。
右手の耐火扉を開け前室に入る。
前室
作品の荷ほどきや梱包をする部屋
収蔵庫
収蔵棚は2段になっている。
下段は絵画用のラックが並び、必要に応じてレールとラックを増設していく。
上段は小さめの立体作品向けのラックが並ぶ
天井に伸びるグレーの筒は空調ダクトで、メッシュの生地でできており空間全体に柔らかな空気を送る。
2階収蔵庫の前室。このフロアのみ前室を中央に配し、両側が収蔵庫となっている。
この収蔵棟最大の特徴は「魅せる収蔵庫」としていること。
美術館のように自由に観覧できる訳ではないが、前室を展示室のように使い「芸術資料の活用を促進し地域連携や芸術の振興を推進」を目指し、藝大保有の膨大な資料を見学できるラーニングの機会を増やす。

通常見せることのない機械室を見せたり、普段立ち入ることのない収蔵庫に入れるなど、藝大らしく既成概念を壊して表裏の関係を共存させているのだ。
これらが全て買い上げとなった学生の作品で、中には100年以上前の自画像が展示されている。映像作品やデジタル作品もあるのでモニターも設置されている。
躯体は全面アルミパネルで覆われ、仕上げは調湿パネルで目地の部分に杉板を被せてある。本館は全面杉板張りとして空気を呼吸させていたが、現在の収蔵庫はこのタイプが主流だそうだ。
収蔵庫は中央に見える小窓から中の様子を観察できる。中はほかの収蔵庫同様、スチールラックが2段に構成されていて既に多くの作品が納まっている。
1階収蔵庫も平面は異なるが同様の構成。外部の収蔵庫に保管されていたピアノなどの楽器資料も納まる。
建物全体をラーニングの場「魅せる収蔵庫」とするというコンセプトから、各所にこのようなスペックがプレート、或いは直接壁にプリントされ掲示されている。
(©aat)
こちらは階段室の壁。仕上げを途中でやめた場合はどうなるかというところもみせている。
(©aat)
一度外へ出て機械室へ。
消火用の窒素ガスボンベが並ぶ。もう一つ左の扉で奥へ。
外観から見えた赤い壁は窒素ボンベ室の壁だった。
整然と並ぶ空調機器。
特に意匠設計とは関係なく設備設計が通常通りに配置させたそうだが、どことなく機能美が溢れる。
Low-eのペアガラスのため少し緑掛かった色の空間となっている。
この新しい収蔵棟も30年程で収蔵能力が限界を迎えることが前提のため、南面2階の中央に穴が開けられるようになっていて、広いキャンパスの空地に約30年毎に増築されてく予定だ。
30年後には誰の建築が建つことになるだろうか。
ヨコミゾマコトさん
「東京藝術大学大学美術館取手館は、ちょうど30年前の1994年に竣工しました。今回はその増築です。人が設計した建物の隣に建てる、ましてや橋で繋ぐというのは、設計者としてとても緊張することです。しかも六角鬼丈先生の作品です。どうするか、とても悩み、考えました。
当時は、『芸大らしい建築』として、現役の造形作家でもある学内の先生方の作品を館内に分散させて常設展示しました。参加された先生方の自由な発想で、バックヤードも展示スペースになり、裏と表が曖昧なユニークなミュージアムになりました。
今回の収蔵棟は、その名前のとおり収蔵庫しかない建物です。普通に考えればバックヤードが拡張されたことになるわけですが、表・裏の関係を曖昧にして、ユニークさにつなげる、という30年前の考え方を承継することにしました。その結果、『魅せる収蔵庫』というコンセプトが生まれました。」
>> PDF図面
【東京藝術大学大学美術館取手収蔵棟】
Tokyo University of the Arts, The University Art Museum, Toride Annex Storage
設計・監理:aat + ヨコミゾマコト建築設計事務所
構造設計:建築構造研究所
設備設計:森村設計
施工:前田建設工業
構造:RC造(一部鉄骨造)
面積:建築面積776.67 ㎡、延床面積2,163.99 ㎡
規模:地上3階建、最高高さ17.677 m

Posted by Neoplus Sixten Inc.

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