KASA展:ものさし と まなざし

KASA | 10. 2月 2025
All photos by Neoplus Sixten Inc.
展覧会コンセプト
「この展覧会は私たちふたりの歩みを記した日記のようなものです。

個展の誘いを受けたとき、これまでの活動をBUILT - UNBUILT問わず、羅列することから始めました。それから思い出に身を任せ、そこに立ち上がる情感と情景を、散文と素描に、かき留め始めました。

彼女が書き、彼が書きました。彼が描き、彼女が描きました。
これらの瞬間は、いくつかのプロジェクトに跨る思惟の起源を呼び起こしました。

前半部、ギャラリーの中央に舞う木版には、絵と詩をえがきました。
静かにゆっくりと、歩き回ってみてください。

あなたは氷河の冷たさに触れ、私は光塊のぬくもりに触れるかも知れません。
あなたはいくつかの声に触れ、私は心の動きに触れるかも知れません。

後半部、壁一面を掩うポストカードには、代表作のタイムラインを並べました。

建築家、デザイナー、アーティスト、ディレクターなど、私たちが探求してきた役割を巡る旅です。小さな模型、スケッチ、図面、写真を積層させ、プロジェクトごとに一つずつ柱を立ち上げています。

本展は建築に向かう私たちふたりの心の動き、つまり形姿が生まれる前の個人的な体験、考察、想像の世界を記述した展覧会です。」
KASAの二人は石上純也建築設計事務所出身。ロシア出身のコヴァレヴァさんは、石上事務所がコンペで勝ち取ったモスクワの科学技術博物館プロジェクトのためにインターンの頃携わり、大学卒業後担当として来日しそれから日本で生活している。
KASAの仕事は現在ロシアと日本を中心に、その内容は建築家としてだけでなく様々な立場で携わっている。

初めての個展をどのようなものにしようかと考え、自分たちの今の個展と10年20年後の個展とでは意味合いが違うと思い、独立して5年ほどのフレッシュな気持ちで今大事にしていることを将来に向けて書き留めておこうとしたそうだ。
もう一つは、この5年の間に建築以外にもアートであったり、祭のディレクションであったり様々なことをヒエラルキー無しに全力で取り組んだ濃密な時期であり、そのため建築だけにフォーカスしたものではない展覧会としている。
会場は大きく二部に構成されていて、こちらは描き下ろしたドローイング。
5年間に2人が感じたことや大事にしたこと、気付きなどをまずテキストとして書き出し、その中からさらに重要だと思うことに絞ってそれを絵にした。
パネルの裏にはテキストが書かれているが、必ずしもドローイングと対になっているわけでなく、ランダムに書かれ、またドローイング化されていないテキストもある。
これらドローイングとテキストがランダムに表現されているのは、アイデアの種はこれはこれ、と直接的なものばかりではなく様々な出来事や気付きが複数絡み合っているからだ。
観覧者はドローイングを観たり、テキストを読んだりこの中を自由に動いて欲しいとのこと。
例えばこちらは2人がよく歩く散歩道にあった大きな木。
その木があまり使われていない隣の建物周辺の雰囲気をとても良くしていて、建物を何かに活用できないかと考えていたが、ある日突然木は切り倒されてしまい、その素敵な雰囲気はなくなってしまった。
思ったことを行動に移せばよかったなと学び、その後の〈小石川植物祭〉の企画・発起とディレクションに結びついた。
関連したテキスト。
こちらは十二単をイメージしたもの。
モスクワ出身のコヴァレヴァさんが日本の家は冬寒いと言う。そんな会話の中から、昔寝殿造りの生活では人はどうしていたのかと思いを馳せ、寒いので着込んでいったことが十二単のルーツとなっていて、寝殿造りの間仕切りだけの空間、その外の庭と全てが連続していると感じた。そのイメージを進行中の住宅計画に用いている。
関連したテキスト。
もう一方は壁面を使った展示。
携わった代表プロジェクトが左から右に時系列に並ぶ。
そして上に行くに従ってプロジェクトが具体的な姿になっている。
〈Wind Garden〉2023
Tokyo MidtownのDESIGN TOUCHでの企画。
ミッドタウンのガーデンに種を蒔き、その花が数千本風に揺らぐ。
最終日にはそれを皆で採集するという参加型インスタレーション。
採集された花はそれぞれの方の家に持ち帰られ、そこで揺らぐ。というストーリー化された作品。
〈Dacha in Tver〉進行中 / 2026
モスクワ郊外トヴェリで進行中の菜園付きセカンドハウス。ロシアでは都市部のアパートとは別に、多くの人が郊外に国に与えられた「ダーチャ」を持っているそうだ。
ダーチャはダーチ(与える)という動詞に由来し、名詞ダーチャは(与えられたもの)の意味だそうだ。
敷地は3000㎡あり、広い敷地で一年を通してどのように暮らすことができるかを提案している。
敷地の写真。モスクワから車で小一時間ほどでこのような風景になる。
コヴァレヴァさんも子どものころダーチャで過ごし、その思い出が前出のテキストにもある。
〈House in Home〉進行中 / 2025
三重県桑名市で進行中の佐藤さんの父親の実家。
街の区画整理により移転した500㎡の敷地に、建物を道路側に寄せ広い庭を取り、街と庭の垣根のような建築。庭では野菜作りを始め、食を通じて変わりゆく街との結束点となるような家を目指す。
ギャラリーのエントランスの壁にあるコラージュはこのプロジェクトのスタディだ。
コンペで勝ち取った、ヴェネチアビエンナーレのロシア館改修プロジェクトが1冊にまとめられている。
老朽化したロシア館を補強した上で、吹き抜けや階段を設け可動式の床(展示空間)を設計した。
その可動部の部分模型。
小石川植物祭の様子は動画で観ることができる。
コヴァレヴァ・アレクサンドラさんと、佐藤敬さん
「一般的に建築展では模型を中心にテキスト、図面、パース、ダイアグラムなどによって建築家の意図を説明するようなものが主ですが、この展覧会ではそういう形式ではこぼれ落ちてしまうものを何とか表現しようとしています。
建築は実際に訪れたときは説明もなしにもっと自由に体験し感じることができます。この展覧会はちぐはぐしているかも知れませんが、自分たちの個人的な体験、考察、頭の中のイメージを皆さんが思い思いに解釈して自由に想像を広げてもらえたら良いなと思っています。」
【KASA展:ものさし と まなざし】
Solo Exhibition by Aleksandra Kovaleva + Kei Sato / KASA : By Ruler, By Gaze

会期:2025年1月24日〜3月2日
開館時間:12:00~18:00
入場:無料
会場:プリズミックギャラリー(東京都港区南青山4-1-9)
詳細:prismic.co.jp/gallery/works/?p=3936

Posted by Neoplus Sixten Inc.

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