増田信吾+大坪克亘展 それは本当に必要か。

Shingo Masuda + Katsuhisa Otsubo
21. 1月 2020
All photos by Neoplus Sixten Inc.
3階会場
展覧会コンセプト


それは本当に必要か。

最初の設計は、住宅の塀だった。家の境界を成す1枚の壁によって、僕たちのそれまでの建築の価値観は一変した。10m足らずの壁が、切実でありながら、人の生活と庭の植生、街並みを巻き込んでいった。

それは、その家の暮らしとその界隈にとって、最も設計するべき前提に思えた。これ以降、自分たちの思い描いたものをかたちづくるための設計はしていない。では、何を設計するのか。

この展覧会では、これまでの実践において、それぞれどのように設計されるべきことを発見し、状況の中に定着させてきたかを整理してみる。

その場に根本的な影響を与えられる仕組みが設計されることにこそ価値はある。異なる場の成り立ちがぶつかる境界上や、窓や基礎や軒といった部分、見過ごされがちな細かな気付きに、その価値の源が潜んでいたりする。

外側まで大きく視野を広げること、そして目を凝らすことを同時に重ねることで、本当に必要なものは何か、を改めて考える。

冒頭、プレスカンファレンスにて展覧会の解説をする増田さんと大坪さん。
2007年大学卒業後、共同で増田信吾+大坪克亘を設立。本展では2014年の〈躯体の窓〉以降の9作品について取り上げられている。
展覧会コンセプトにある、最初の設計である住宅の塀〈ウチミチニワマチ〉(スライド写真)は増田さんの実家の塀の設計。他に仕事もない時期、塀の設計ながら何か出来ることはないだろうかと考えを深めていくうちに、家と街の間にある一枚の塀が、例えば一つ窓を開けるだけで、そこから何が見え、どこと視線が交錯するのか、凹ませるだけで意味が変わってくるなど、モノとモノの間、境界を変えるだけで空間を揺るがす、街や人との関わりが変わってくる設計があるということに気付かされたという。
二人が飛躍するきっかけとなる〈躯体の窓〉。広い前庭を持つRC造のアパートを、週末住宅兼貸しスタジオとしてコンバージョンすべく、その内装デザインを依頼されたが、スタジオというトレンドによって更新される内装であることと、施主自らが十分にデザインをできると判断し内装デザインは受けず、自分たちが建築家として何が出来るかを探った。
そこで気付いたのは、「窓とは光や風といった内部にとって必要なことを外部から取り込むためにつけられる。しかし考えてみれば、窓は内部と外部、両者の間に立つ境界面でもあるため、外部にとっても必要な窓があってもいいのではないだろうか。」と。
(写真はスライドより)
窓ガラスは内部に十分な光をもたらすと共に、外部に反射もする。そのことで周囲に立ち込む住宅による影で覆われる庭が、光と緑溢れる明るい外部空間となった。境界のデザインによってインテリアと庭といった内外を超えた場を同時に設計できたのだ。
(写真はスライドより)
といった設計プロセスをもつ彼らの作品。会場の3階には大型の模型が幾つか展示されているが、それは何かの部位のようで、建具や、棚、サッシュ、基礎に重点をおいた模型などだ。
これらの背後の壁やガラスに、各々のプロジェクトで感じられた “気付き” が書かれている。
“気付き” は 〈つなぎの小屋〉 では例えばこんな具合だ。「建物は、内部空間をつくるために閉じた状態を完成形としている。開放的な場所にしたいと思っても閉じていることをベースとしているため、いくら開口部を大きくしてもその成り立ちとの矛盾が生まれる。『開く』ことを前提とし、そこから『閉じる』こと考えていく方がより自然ではないだろうか。」
〈Valextra 伊勢丹新宿店ポップアップストア〉
〈イソップ 日比谷シャンテ〉
〈リビングプール〉
〈躯体の窓〉左、〈街の家〉中
中庭も何かの “部位” にみえる〈初めの屋根〉、〈goodoffice品川〉
3階で一通りの模型を見たところで、4階には1/100模型が並ぶ空間となる。
周辺も含めた敷地模型に目をこらして見る。
ハンドアウトと照らし合わせると、3階の模型と4階の模型は同じ作品がスケール違いで並んでいることが分かる。
つまり3階では投げかけと共に「何なのかよく分からない」状態で、4階ではそれらが建築の一部であることに観覧者が気付くのだ。
全ての模型は是非会場へ足を運んで見ていただきたい。
そして帰りながらまた3階の模型を見ると、「なるほど、だからこういった部位が必要だったのか」と理解できる。或いはもう一度4階に上がり再確認したくなるかも知れない。
本展はTOTO乃木坂ビルの地下1階から4階まで使われている。
Attitude:[姿勢]場の診断から、最も重要な前提の発見
Adaptation:[適応]場がうまく回りだす転換点の探求
Appearance:[様相]場に適応する建築と、その周辺への影響
1階と地下1階には、永井杏奈による増田信吾+大坪克亘作品の写真が散りばめてあるので、楽しみながら探して見て欲しい。
地下1階。
増田信吾さん(左)、大坪克亘さん(右)
「この展覧会は、本当に必要かということを考えるにあたって、どういう姿勢でプロジェクトに向かい合い、どこを設計すると場全体を揺るがすことが出来るかを探求し、次に姿勢を発端としてどのようにして構造物なり構築物が与件を含めながら育っていったか大きめの模型で示し、それらはどのような姿になって立ち現れたかを写真で紹介しています。プロジェクトの紹介というよりも、思考の展示となるように、9つのプロジェクトを3つの枠組みを使って分解し建物全体に散りばめました。」
本展に合わせてTOTO出版より刊行された、増田信吾+大坪克亘初の作品集〈Adaptation〉
永井杏奈による撮り下ろし写真と、詳細図、敷地・三面図の3部構成でまとめられている。
【増田信吾+大坪克亘展 それは本当に必要か。】
[Shingo Masuda + Katsuhisa Otsubo: Is It Truly Necessary? ]
会期:2020年1月16日~3月22日
開館時間:11:00~18:00
休館日:月曜・祝日(ただし2月23日は開館)
入場料:無料
会場:TOTOギャラリー・間(東京都港区南青山1-24-3 TOTO乃木坂ビル3F)
詳細:https://jp.toto.com/gallerma/ex200116/index.htm

Posted by Neoplus Sixten Inc.

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