The 42nd Exhibition of Winning Architectural Drawings and Models

SD Review 2024

15. 9月 2024
All photos Neoplus Sixten Inc.
本展は「実施を前提とした設計中ないしは施工中のもの」という条件で作品が公募され、その中からの入選作(今年は13作品)を展示、審査によって鹿島賞、朝倉賞、SD賞等を選出する。
審査員:青木淳、中山英之、山田憲明、金野千恵
今年は会場に入って直ぐ、3枚のパネルが掲げられている。
6月6日に死去した、SD Reviewの発案者であり、かつ本展会場に利用されるヒルサイドテラス設計者 槇文彦の追悼。
〈槇文彦のSDレビュー語録〉
「建築家とは永遠に夢を見続ける動物なのである。そしてそれは不特定多数の人々との対話の機会でもあるのだ。今日まで30年間、SDレビューに参加した入選者、審査員たちの顔ぶれを見ればわかるように、そこから日本建築界の一断面が鮮やかに浮かび上がってくるのである。」(2012年)
〈あおいさんかく屋根〉
砂越陽介/Yosuke SAGOSHI Atelier
用途:コワーキングスペース、ギャラリー、ポオプアップキオスク
所在地:東京都豊島区
1936年池袋、貸アトリエが村を成し、詩人・小熊秀雄はそこを「池袋モンパルナス」と名付けた。
アトリエ村が形成された谷端川、暗渠化したその緑道沿いに、あおいさんかく屋根と7つの屋根が連なった建物がある。昨年までは看板工場+住居+美容院として、それ以前は彫刻家のアトリエとして使われていた。さんかく屋根はアトリエの名残で、高い天井と大きな北側採光窓を持つ。
かつては様々な生産活動が生態系となり、街となっていた。リソースは街の中に存在し、新たなモノを産んでいくローカルエコシステムがあった。現在は断片化してしまった生態系。建築には、その断片たちを現代の感覚で編み直す可能性と使命がある。
役割を失った「あおいさんかく屋根」を、現代人のためのローカルな協働と発信のための場として変換する。光を起点とし、光を廻らせ本来異質の空間をつなぐ「改良体」と呼ぶ光井戸を挿入、流れが分岐し合流する一体の入り混じる空間を創り出す。
〈収集と組み合わせのポイエティーク〉
三輪和誠/東京藝術大学院在籍、普川陽菜/東京藝術大学在籍、山田伸希/横浜国立大学在籍
用途:週末住居、製材所倉庫(既存)
所在地:長野県飯綱町
製材所として使われていた倉庫型建築を、ちょうど着古したセーターを編み直すように、既存も含めた環境を少しずつ解き、繕いながら、施主夫婦らの二拠点生活のプラットフォームとして漸進的につくりかえるプロジェクト。
既存建物・内部に残る木材・敷地内の遺物・施主の所有物や調達が容易なもの・敷地内を通過する水や気象といった事物を収集し組み合わせることで、外部と内部を隔てる倉庫型の既存建物を変化した与条件や環境・循環の中に着地させる。
編み直しによって、身体・情緒的に馴染んだセーターの質が、横滑りしながら、新たな様相へと遷移していくように、今までありふれたものの配列が変わり続けることで風景を更新していく営みの道具立てとして、まずは、ここで過ごすためのシェルターを整え、また施主や訪れた人らと環境や建築に手を加え続けられるように、収集したモノをアーカイブし、それらの組み合わせ方のレシピを用意する。
三輪和誠さん
「完成形はなく、変わり続ける基地のような建築。」
〈みどりまちの群像劇〉
横井創馬/横井創馬建築設計事務所
用途:事務所
所在地:福島県郡山市
本計画はとある会社の4軒目のオフィスで、その会社は通り沿いに既に3つの事務所が建っています。
大部屋にデスクが並ぶ効率的な既存オフィスはどこかそっけなく、会社にいるひとりひとりの多様な人生やキャラクターには着目していないように感じました。彼らの仕事場を「群像劇」のように捉えてみることで、今までよりも豊かな人間関係への気づきや多くの感受性、自分に合った働き方のようなものを発見できないかと考えました。
建物内の動線は様々な部屋をスキップフロアを介して、めぐることができるよう設計していて、様々な活動を助ける設備や部屋の形状や家具、特徴のあるモチーフなどを配置しています。それらを舞台と見立てることで、お互いが観客と登場人物という構図を作り出しています。
他者の演じる役割や態度・行動を観察することで、その人のことを自分の中に描き、徐々に他者と知り合い、関わっていく。それらを助ける舞台装置のような建築を目指しました。
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〈模様の混交〉
澤伸彦・吉海早瑛/澤伸彦建築設計事務所、市江龍之介/ICE/ichie architects
用途:別荘
所在地:栃木県那須町
サウナを伴った保養所をつくるプロジェクト。
豊かな自然とともに人工的な環境が混在するセカンドハウスの庭、約2,100㎡が敷地である。この庭は、もともと園場であった場所が別荘として開発され、放置されたことで、様々な樹木だけでなく、形の良い石も無造作に点在する林に変化した場所である。
既存樹木の生育を大きく妨げない配置計画と土工事/地面を専有せず独立基礎や岩によるハイブリッドな基礎と土台梁の構造計画/高床の床下を活かした換気計画や設備計画/流通している建材寸法や敷地内の間伐材を用いる形態・収まり等を混在させ、複合的に設計を詰める。
敷地環境への応答はもちろんのこと、流通や地域材に対しての応答、主人や職人の助力による営繕能力への応答を建築の造りに反映し、様々な要素が重なり隣接し合う状況を構築する。
部分と全体の区別がないままに、数多の模様のまとまりの中で変容しつづける建築を考えている。
〈TOOLHUT〉
大澤さほり/SAHORI OHSAWA Architects
用途:工場(ワイナリー)
所在地:長野県上田市
施主は2016年よりこの上田の土地にVineyard(ブドウ畑)をスタートさせた新進気鋭のワイン生産者である。除草剤や化学合成農薬を一切使わず、自然に寄り添う農法により生まれるナチュラルワインは、これまで多くのファンを獲得してきた。当初より畑は自社保有であったが、醸造の過程は委託であったため満を持して自社ワイナリー(醸造所)をつくる運びとなった。
敷地は市内から少し外れた田園風景の中に位置する。敷地のすぐ北側には県道が走り、南側の山に続く斜面には施主のブドウ畑が広がっている。そのことから様々な角度からの視線に耐えうる“裏表” のない建築の姿を想像した。
また醸造所は機能上大きな気積と高さを必要とするが、風景に対し威圧するような物は避けたい。そして何より施主のワインへのイノセントな情熱とエッセンシャルな仕事の姿勢をそのまま建築の佇まいにも表現しようと試みた。
大澤さほりさん
「構造的な挑戦と、ボリュームの配置で余白を生み、余白を利用してワインを通した交流を生むスペースを設けた。」
〈Adaptive Design & Assembly System Utilizing Reclaimed Timbers〉
木内俊克/SUNAKI、バルナ・ぺーター・ゲルゲイ(Gergely Peter Barna)・岩見遙果/京都工芸繊維大学特任助教、戸村陽/ALTEMY Digital Designer、近藤誠之介/京都工芸繊維大学大学院在籍
用途:[Case-1] 藤棚、[Case-2] 庇、棚、作業台、休憩座面
所在地:[Case-1] 京都工芸繊維大学 東キャンパス中庭、[Case-2] 京都市北区
Reclaimed Timbersとは、通常は解体木材や仮設資材など、一度別用途で使われていた木材をリユースの目的で収集した材のことを指すが、ここでは販売経路にのらない間伐材など、ウッドチップや燃料にしかならなかったものに建材用途を与え再生したものも含めた非規格材の総称として用いる。
本プロジェクトでは、それら非規格材のもつ個別でばらばらな材としての魅力を最大限引き出しながら、一般的な木造住宅や造作木工事の中で取り扱うことを可能にするデザイン/加工/組み立てシステムを提案する。
3Dスキャニングにより取得した非規格材一本一本の3Dデータにより、100年近い材齢の古材から直近の規格材まで、寸法・ねじれ・形・特徴が異なる材同士の接合部加工が一連のプログラム上で処理される。
接合部の加工はロボットアームや5軸CNC切削機によるデジタル・ファブリケーション利用を主眼に置きつつも、手刻みでも対応可能なものを採用するなど、在来木造工法への部分的な組み込みを前提にした提案となっている。
〈小さな森の図書館〉
高池葉子・尾野克矩・佐藤緋里/高池葉子建築設計事務所、浜田英明/浜田英明建築構造設計
用途:書庫
所在地:千葉県いすみ市
●小さな図書館構想 
小さな山の頂上に1万冊の本を収容する書庫をつくるプロジェクト。30年前山荘を購入し、週末に通い果樹の手入れをしながら季節の恵みを楽しんできた施主。ライフワークとして収集した本をアーカイヴとして残したいと願いこのプロジェクトが始まった。将来的には小さな図書館として開放する予定である。

●ローカリティと先端技術の融合
都会から離れた過疎地に将来的に世間から隔絶されそうな書庫をつくるため、この地に訪れたくなる動機付けとして象徴的な形の建物を提案した。その形状を実現するため3Dを駆使したプレカットや搬入しやすい新素材を用いる。先端技術を用いることで地方の大工さんでも複雑な建築の施工が可能となり、同時に大工さんからその土地固有の技術を教えて頂き、新しい建築のあり方、新しい地方と都市の関係性を構築する。

●社会的なアッサンブラージュ
できる限りこの土地のものを使うことで資源を循環させると同時に、建材メーカーから廃棄前の建材や端材を提供してもらう。自然素材とメーカーストック品を組み合わせる、言わば社会的なアッサンブラージュの様相を呈する実験場とした。
〈溝口一丁目のテナントビル〉
上野辰太朗、篠原勲/篠
用途:テナントビル
所在地:神奈川県川崎市
東京の雑居ビル群は、合理性や経済性を重視して設計されたにもかかわらず、非常に多様な建築形態を持っていることに驚かされます。私たちの興味は、その「雑多さ」を新たに解釈することにあります。
このプロジェクトは、東急沿線・溝の口駅近くの商業エリアに位置するテナントビルで、矩形の専有部、最大の床面積、最低限のスペックというルールに基づいて建てられます。建物の大きさがまちまちであることや、仕上げや窓の種類が多様なことは、街にとってネガティブなことではないはずです。
でもそれらがそれぞれの敷地の中で完結しているとしたら、総体としての街も素敵なものとはならないでしょう。
私たちは、敷地模型や周辺模型を使って、実在する街の対象を探求し、動画のコラージュや蛍光紙、クレヨンを用いて、建物と街との関係を表現しました。また、解像度を低くしたレゴブロック模型で、街との距離感や関係性を探求し、東京の多様な都市環境における建築のあり方を追求しています。
〈時代のポシェ〉
鈴木淳平/HIGASHIYAMA STUDIO
用途:住居、ハウススタジオ、ゲストハウス
所在地:東京都世田谷区
建築におけるポシェ (Poche) は、壁や柱を黒く塗りつぶした西洋建築の作図技法を起源とし、「図」となる空間に対して、壁・柱・梁などの「地」となる部分を指す。ここでは、時代の異なる軸組みの重ね合わせによって生じた「間」、すなわち日本建築に漂う残余空間を「ポシェ」と呼び、その建築的実相を最大限に引き出す方法を模索している。
対象となる旗竿地の民家は1951年に完成後、複数回にわたる大きな増改築が行われており、築年代の異なる柱や梁が二重に並置され、天井は何重にも貼られ、場当たり的な対応によって必要以上に壁や天井が厚みをもっていた。
屋根の改修および屋根裏部屋を増築するにあたり、耐震補強も考慮した屋根を支持するストラクチャーを地面から立ち上げた。既存の軸組みからあえてセットバックさせることで歴代の軸組を内包した「ポシェ」の創出を試みた。
ここでの「ポシェ」は、キッチンや家具、収納、設備など、生活の舞台を支えるファンクショナルな「地」として「図」の純粋さを保つと同時に、混沌とした既存建物に自立性を与えるエレメントとして建築表現に参画できないかと考えている。
〈房総の別荘〉
寺本健一/office of Teramoto
用途:別荘
所在地:千葉県
外房の海岸線から1.5km。海抜100m、南側に180度の視界。原生林の先に太平洋を遠望する雄大な景色が広がる。
敷地は50年前に山肌を切盛造成した別荘地にある。その近代化した地盤面下約7mの傾斜した更新世泥岩層まで小径鋼管杭を回転圧入し、その上に木造建築を建てる。200万年前の山肌に脚を伸ばして建つ「現代の投入堂」のような構造形式を思い描く。地面を固めるコンクリートは使用しない。
ビューとプライバシーを最適化するための高床の形式で、施主のアートコレクションを多湿な外部環境から離す。屋根は切妻だが天井はサイクロイド曲線として天井と壁の境界線を消す。珪砂で少し粗くした白い面が時間と共に移ろう光を拡散反射する。光がまわりこみ影が少しうすくなる。主役は変幻するビューとアートで建築は後景化する。
杉の簓子下見板張りとした外皮が微気候にあわせて呼吸する。暴風に備えて雨戸を設える。戸袋には近隣の民家と同じ矢羽根張りの装飾を施そうと思う。
寺本健一さん
「圧倒的な自然の景色を受けとめる建築をできるだけ自然素材を使って造る。展示はオフィスの様子をそのまま持ってきたような恰好。」
〈corners  いくつもの世界をすごす家〉
板谷優志/OFFICE 141
用途:店舗併用住宅
所在地:東京都
60代夫婦の老後のための家の計画である。これまでの通勤のある生活から一変し、一日のほとんどの時間を家ですごす暮らしを想像すると、猫のように快楽的に、気ままに、場所を選びながらすごす事ができたらどんなによいだろうと思う。
そのために、一つの大きな原理ではなく、いくつもの半独立した「小さな世界」で建築全体をつくることを考えた。そこでは、陽の当たるテラスでのんびりした時間をすごしたり、ひっそり落ち着いた場所で趣味に耽ったりと、一本の線のような時間の一日ではなく、いくつかの線をつなぎ合わせたような時間の一日をすごすのではないだろうか。
それはまるで、たくさんの小鉢がのった定食を食べる時のように、いくつもの独立した世界を楽しみながら、気の向くままにすごすための家である。
〈森のなかの幸せ工場 ―250mの屋根がつくる風景と居場所―〉
柿木佑介・廣岡周平・中尾壮宏/PERSIMMON HILLS architects、岩岡孝太郎/飛騨の森でクマは踊る
用途:工場+事務所
所在地:愛知県扶桑町
大きな鉄板を圧延、加工する工場の計画。
製造ラインに大規模な設備が設けられ、危険が伴うため徹底した安全管理のもとに作業が行われる。直射日光の遮断が必須で工場内は暗く閉鎖された環境になりがちである。事業主はこうした労働環境を改善することを求めていた。
工場の設計自体は製造ラインにより先行して決まっていたが、若干の配置変更や開口部の変更等は可能であった。そこで全体配置を微調整し、工場のまわりに細長い下屋をつくることを提案した。
下屋により日射を遮ることで工場の壁面に大きな開口をあける。工場内は透明な下屋と庭に囲まれ、外と適度な距離感を保ちながら開放的で緑に包まれた「森のなか」のような環境となる。同時にここで働く社員の休憩所や来訪者に開かれた居場所を生み出し、工場が単なる労働の空間ではなく、ものづくりの楽しさを伝え、鉄に関する実践と共創の場となり、250mの屋根のもとに新しい風景が立ち現れる。
〈Soil Tent 2024〉
秋田亮平/秋田亮平建築設計事務所、金田充弘/Arup東京事務所、
伊藤優・八木新/東京藝術大学在籍、関田重太郎・方思韬・南昂希・糸数海音・細田晃太/東京藝術大学大学院在籍
用途:フォリー
所在地:茨城県取手市
テンポラリーなフォリーの計画。
大学構内である敷地に、麻布と土を海水由来のバインダーで固めることで作られる、テントのように薄い架構を置いてみる。
海水由来の酸化マグネシウムと塩化マグネシウムに水を加えると硬化反応をおこすマグネシアセメントは、ポルトランドセメントと同等の強度や接着力をもつことから、そのポテンシャルは高く、細骨材には風化した花崗岩である真砂土を使用することで、土を用いながらも薄い架構を可能としている。
シェルの語源である貝殻のように薄く作る方法として布に吹き付ける工法に注目し、カテナリーをベースとしたフォームファインディングから基材となる型紙の設計までをひと繋がりに行うことにより、最終形状に限定されない構法を目指している。
マテリアルリサーチから工法の検討、そして造形までを自らの手を動かしながらモックアップの制作を通して探求することで、まだ見ぬマテリアリティの可能性を考えている。
【SD Review 2024】
The 42nd Exhibition of Winning Architectural Drawings and Models

東京展
会期:2024年9月13日〜9月22日
開館時間:11:00~19:00(会期中無休・最終日は16:00まで)
会場:ヒルサイドテラスF棟(渋谷区猿楽町18-8)
入場:無料

京都展
会期:2024年10月3日〜10月26日
開館時間:10:00~17:00(10/19・日曜・祝日は休館)
会場:京都工芸繊維大学 美術工芸資料館(京都市左京区松ヶ崎橋上町)
入場:無料

詳細:kajima-publishing.co.jp/SDReview/exhibition

Posted by Neoplus Sixten Inc.

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