関内の集合住宅

Akira Koyama
23. 4月 2021
All photos by Toshiyuki Yano
11階建て94住戸からなる共同住宅。敷地向かい側では横浜文化会館を建て替えて「横浜ユナイテッドアリーナ(仮称)」が2024年に完成予定、その裏手には横浜武道館が2020年に完成、さらに写真右奥では横浜市教育文化センター跡地に関東学院大学のキャンパスが2022年完成予定など、エリア全体が大きく様変わりしてきている中、22m2〜27m2 程度の小さめの住戸が集まる賃貸集合住宅で、購入者(住戸オーナー)に向けてファサード全体でアピールする事を求められた。
多くのマンションでは災害時に戸境壁を破って隣に避難できるようバルコニーが連続する。つまりファサード意匠は、どうしても戸境壁やバルコニーそのもとなる。このマンションでは戸境壁が2.9mピッチで必要になるため、そのままでは小さな住戸がさらに強調されてしまう。
そこでまず、各階のスラブをバルコニー前端より前に持ち出して水平性を強調し、近隣の防火帯建物に馴染ませる様にした。
そして、スラブの間にHPCという超薄肉コンクリートパネルをリズミカルに配置し、戸境を目立たせないようにしつつ、ファサードの意匠性を高めることとした。さらに手摺やバルコニーの壁や天井もダークな色にすることでスラブとパネルが引き立つようになっている。
今回小山さんも初めて用いたというHPC(ハイブリッド・プレストレスト・コンクリート)は沖縄の企業で開発されたばかりの新素材。骨材として砂のほかポリプロピレン(PP)の繊維が混合され、プレテンション材としてカーボンワイヤーが通されているものだ。カーボンワイヤーにPP繊維が絡みつきテンションを維持できる。通常のプレキャスト・コンクリート板と異なるのは鉄筋を使用していないため軽く海辺でも錆びないことや、38mmと非常に薄くできることなどが特徴だ。
日経 xTECHに特集記事
エントランスにもパネルによる意匠を引用したゲートを設えた。
エントランスホール。天井には木毛セメント板を用いて素材の表情を出した。
右手のパネルもHPCで、成形時にアクリル片を並べて光を透過させることもできる。星座も描かれているので探す楽しみもある。
共用廊下。ホテルライクなダークな色調は半屋外としてバルコニーと同様にした。
住戸は22㎡〜27㎡程度の1Kがメイン。購入者(住戸オーナー)は自身で住むこともできるが、基本的にはオーナーとなって賃貸として運用する。
Photo: Toshiyuki Yano
バルコニーから見るHPCパネル。40mmのパネルを用いたが、非常に薄いパネルだということがよく分かる。
割れるのでは、という心配もあるが、カーボンワイヤーとPP繊維が入っているので靭性があり、平らに置いて人が乗るとたわむが割れない粘りのある材だそうだ。
外から見たときは中から視界はあまり無いのではと想像したが、ご覧のような視界を確保しており、むしろ周囲からの視線を程よく遮ることができる。
こちらは最上階に1室だけあるハイサイドライトを持つ住戸で、面積も他の2区画分を有する47㎡の1LDKだ。
ハイサイドライトは塔屋が飛び出す形で4面からたっぷりの自然光と空への抜けをもたらしている。
投資用分譲マンションの厳密な事業性やプログラムの中で、ほぼファサードで勝負し投資家に訴求しなければならいという難しいプロジェクト。周辺の再開発にも負けない新しい建ち姿が求められ、新素材を用いていその要望に応えた。
【関内の集合住宅/ZOOM横浜関内】
事業主:トーシンパートナーズ
設計・監理:小山光+キー・オペレーション
構造設計:構造設計工房デルタ
設備設計:Comodo 設備計画
施工:藤木工務店

構造・規模:RC造/地上11階建
敷地面積:468.83㎡
建築面積:336.94㎡
延床面積:3,251.27㎡

Posted by Neoplus Sixten Inc.

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