東大泉の家

Shuhei Goto | 15. 3月 2025
All photos: Neoplus Sixten Inc.
施主は後藤さんに相談しながら築25年の中古建売住宅を購入した。新耐震基準の住宅ではあったが、構造家に図面と現況を照らし合わせながら解析してもらったところ、部分的に耐震補強した方が好ましいと判断された。
耐震補強するにあたって、1、2階の耐震要素を同じ面に揃えた方が良いということで、2階の外壁面を910mmセットバックし1階の外壁ラインと合わせた。
施主はこれら初期の検討を現場で重ねているうちに、袋小路に面した近隣の雰囲気が見えてきて、自身の子どもと同世代の子どもがいて路地で遊んだり、良好なコミュニティがあることが確認できた。
そこで南側に(左面)にメインの開口があったものの隣家が迫るこの家を、東側の路地に積極的に開き、家と路地が連続するような佇まいを望んだ。
後藤さんはそれに応えるように1階を縁側のように使え、セットバックした2階にバルコニーを設えて、路地と大きく関わることができるように設計した。
2階バルコニーの前面の柱梁は既存で、かつての外壁ライン。セットバックしたサッシュの後ろに柱やブレースを入れ耐震補強し、1階も壁に穴を開けたので、開口と開口の間が耐力壁となっている。
 
1階の軒下にはスチールフレーム、2階のバルコニーにはカーテンレールが取り付けられ、それぞれすだれと半透明のビニールカーテンなどで街への開き具合を調整する。
また2階の手摺り、1階のスチールフレームは同じ構成とし1、2階をひとつのファサード面に見えるように工夫している。
一手間加えたデザインのスチールフレーム。
側面に見える壁は、サイディングが既存で、開口部を塞いだ箇所がガルバリウムの波板。
1階。既存では玄関を入ってキッチン、奥にダイニング、右にリビングが構成されていたがワンルーム空間へコンバージョンし、路地に対して連続させている。
柱は構造上抜くことはできなかったので、そのまま既存住宅の面影を残す。
ワンルーム空間の奥はカーテンで仕切った寝室スペース。
手前はフリースペースだが、将来子どもの成長とともに柱を基準に個室とすることを想定している。
寝室スペースの隣は浴室、カーテンの裏は収納、と路地から家の奥へいくほどプラベートな空間となる。
壁や天井は施主の希望で、グレーの紙を貼った特注のプラスターボードままで仕上げされていない状態。クロスとも塗装とも違うマットで柔らか光のグラデーションが現れている。
カーテンはテキスタイルデザイナーの堀口真貴乃さん(fab-)に仕立ててもらった。
柱が高密度で林立するユニークな空間。
2階。3つの個室があったが仕切りを取り払いLDKワンルームに。開口に面した柱やブレースが新設の構造。
LDK空間として広く取るため一部柱を抜いた。抜いた部分は棟木へ接続するスチールロッドのブレースで補強。そのほか火打ち梁で補強しているのも見える。
新旧柱梁の色の差をなくすため薄い白を塗装し落ち着かせた。
キッチンや水回りは建物奥(西側)に寄せ、1階同様奥がプライベートな空間となる。
寄せたキッチンや水回りは垂れ壁と白に切替え空間を分けている。
垂れ壁には縁を出し、ちょっとしたものがディスプレーできる。
天井は剥がしてスノコを渡した。
柱に付くのはフジワラのフラットLED電球で、扁平のフラスコのような形をしている。
洗面室兼家事室。乾燥機が入るが部屋干しもできるようにした。
棚は造り付けにせずフレキシブルに使えるよう自在棚を選んだ。
ダイニングの位置はちょうど隣家の狭間の抜けを狙った場所に決めた。
ダイニングテーブルは施主の実家にあったもので、塗装を剥がし、色をナチュラルカラー変え空間に合わせたそうだ。
910mmセットバックして生まれたバルコニー。路地との中間領域として開きつつも室内へのバッファーとして機能する。
天井上部。バルコニーと同様のスノコで、半屋外空間が段違いに連続するような雰囲気だ。
野地板は貼り替え、シルバーを吹き付け塗装したので外光を反射している。
こまかなディテールにこだわる後藤さんは、階段などに張るネット用にオリジナルのリングボルトを製作してもらい取り付けている。
こちらは手摺りの固定に使っているオリジナルのナット。ナットと言えば6角のものだが、円筒に2辺だけ平らにして頭に円盤を溶接したものを専用のスパナで締める。何かを引っ掛けるためのものかと思いきや「丸くてかわいいことと、この住宅唯一の装飾的なものとして円形にすることで鏡面を連続させたかったから」とのこと。
後藤周平さん
「2階の外壁ラインを後退させることで、周囲の住宅に対して適度な距離感をつくりながら開くこと、柱や壁が上下階揃うことにより耐震性能を向上させること。このふたつを同時に満たしています。住宅密集地の路地に生まれたこの半屋外空間が、道路境界線を超えて近隣のコミュニティを育む場としても機能することを期待しました。リノベーションということで、既存を受け入れながらゆるく作るところと、作り込むところのバランスを大切にして設計しました。」
【東大泉の家】
House in Higashioizumi by Shuhei Goto Architects

設計・監理:後藤周平・小田海/後藤周平建築設計事務所
プロジェクトマネジメント:高橋卓/STAND
構造設計:柳室純・村橋碧空/柳室純構造設計
カーテンデザイン:堀口真貴乃/fab- 
施工:関根達也/シグマ建設 
不動産コンサルティング:安藤美香・佐竹雄太/アラウンドアーキテクチャー 

用途:専用住宅
構造・規模:木造2階建て

Posted by Neoplus Sixten Inc.

このカテゴリ内の他の記事