葉山 加地邸(1)

Shuhei Kamiya
2. 2月 2021
All photos by Neoplus Sixten Inc.
旧帝国ホテルをはじめ、日本でのライト建築の設計に深く関わった遠藤。その影響が色濃く現れていると聞いて行ってみると、まず全体が大谷石で仕上げられたアプローチが出迎える。
旧加地邸については住宅遺産トラストに詳しい。
アプローチを進むと複雑に重層する建物が迫る。
アプローチ左手にはピロティがある。ここも全体が大谷石で仕上げられており、ベンチと右奥に水盤が見える。
こちらはライトが1918年に設計し、ライトが帰国後、遠藤新と南信が実施設計を担当し1924年に完成させた、芦屋の旧山邑邸(現ヨドコウ迎賓館)のピロティ。(国の重要文化財)
この建物は高台にあり、ピロティの開口から風景を切り取ることができる。加地邸も高台にあり、ピロティに植物が生い茂る前は景色を切り取る装置として機能していたと想像できる。
ちなみに旧山邑邸の場合、このカットで筆者の背中に水盤がある。
アプローチの右側、大谷石がランダムに積まれてるのがライトとは異なる。その奥の庭へまず行ってみる。
低く深く水平に伸びる軒。周囲の自然と一体となるプレーリースタイル。ロビー邸を彷彿させる佇まいではないだろうか。
2016年、現オーナー(武井雅子)が住宅遺産トラストの仲介で遠藤新の孫から取得。2017年に登録有形文化財に指定されたが、利活用を模索していたところ、2018年に施行された民泊法により、宿泊施設にできることとなり、多くのひとにこの建築を体験してもらえるようリノベーションした。宿泊のほか撮影のために利用できるように公開し、早速、荒木飛呂彦原作のNHKドラマ「岸辺露伴は動かない」の撮影に使われた。
ライトによるシカゴのロビー邸(1910)。
Googleストリートビューより
エントランスホール。右にサロン、左手前にダイニングルーム、左にキッチン、その先は建物の奥に通ずる動線。正面は階段下収納。その上、階段裏の段々を意匠化したもの。
さすがにライトのタリアセン2が良く似合う。これは現オーナーが設置したもの。観音開きの向こうにサロン。
サロン。入ってすぐは2階のロフトに抑えられ水平方向にみに視界が広がる。
3歩進んだところで吹き抜けのサロン全体が現れる。
家具はリペアし、ファブリックを張り替えた。壁や天井は左官で、木部も全て塗り替えた。ペンダントライトはそのままで、間接照明を追加した。
美しいシンメトリーな空間。
こちらはライトによる旧山邑邸。
家具から柱の出隅に寄り添うことで、建築と一体となった居場所。窓際、膳板の下には新規に空調を入れルーバーで隠した。
サンルーム。ここの家具も遠藤によるデザインのオリジナルを修繕した。
テラス。屋外のため木部の痛みが激しかったが、しっかりと修繕。
玄関ホールへ戻り、ダイニングルームへ。
ダイニングルーム。遠藤によるオリジナルの家具は保存され、新しいテーブルと椅子が据えられている。求心性のある船底天井が印象的だ。
ダイニングルームを抜けてテラスへ。柱の石組みを踏襲したベンチとエタノール暖炉を神谷さんがデザインした。ベンチはエステックウッド使用し屋外に対応。
この空間に火を使いたいとオーナーが望んだそうだ。火を囲んだ新しい居場所に生まれ変わった。
どっしりした柱だが、RC造ではなく木造だ。
テラスから庭を望む。
再び玄関ホールへ戻り奥へ。敷地の高低差がそのまま動線に起伏として現れている。
プレイルーム。元はビリヤード台が置かれた娯楽室。ライトへのオマージュで、六角形や三角形の家具を神谷さんがデザインした。テーブルの天板は大谷石だが、使い勝手を良くするためにクリア塗装をした。
左の追加されたキャビネットにはエアコンやワインセラーが収まる。
こちらは旧山邑邸のテーブルとチェア。
この部屋の暖炉周りもライトの影響が色濃い。暖炉はサロンのものと背中合わせで、1本の煙突に集約されている。両側のガラス越しにサロンの様子も伺える。
光量を補うため追加された照明は、間接照明にして、オリジナルの雰囲気を変えないように配慮した。
プレイルームを出てプライベートエリアへ。水洗トイレを付け替えるために据え付け面を上げなければならなかったので、階段から連続して回り込むような印象にした。

宿泊施設としてどのような改修を行ったのか (2)へ続く

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