山の根の躯体

Takanori Ineyama
1. 9月 2024
All photos by Neoplus Sixten Inc.
神奈川南部に多く見られる谷戸(山に囲まれた谷状の地形)の住宅地。敷地はその谷戸を形成する崖際で、アプローチからはこのように見える。
近づくと崖からせり出すコンクリートの躯体がその姿を現す。
躯体は泥岩の上に乗っている。一見表面は脆そうに見えるが、ボーリングをした上で非常に強固な地盤であることが確認された。
斜面を登っていくと建物の全貌が見えた。箱形の平屋に大開口と小さな開口がいくつか口を開けており、その下は約3〜5m崖の際からせり出している。
手前の砕石は土地を均した際に出たもので、写真では少し分かりにくいが、砕石の斜面にヒモが張られており、その部分に階段を設けるなど、玄関周りも含めもう少し工事があるそうだ。
この土地を見付けた施主はここに家を建てられるかどうか、不動産屋が紹介してくれた工務店や設計事務所をいくつか訪ねたが断られたという。
そして保育園で子どもが一緒だった稲山さんが建築家だと知り、相談され引き受けることとなった。
施主はここからの眺望を最大限に生かせる住宅を望んだが、稲山さんはそれを何とか叶えようと崖地故の法規を乗り越えながら、構造家と構造検討を重ね完成させた。
玄関。コンクリートの強さに負けないようにラワンやラーチの木目を現したシンプルで力強い表情。
左はクローク。
LDK。何の説明も必要なさそうな明快なデザインで、パノラマに風景が見渡せる。
谷戸を見渡せる大開口。施主はこの眺望を獲得したかった。
開口の縦桟は□75mmの無垢木材。角の2本は□75mmの無垢鉄材で、構造として天井の梁を支持する。
リビングのペンダントライトはデンマークのHAY
ダイニングキッチンには造り付けのテーブルを設えた。反対側に収納があるが、ほかに置き家具が据えられるそうだ。
ペンダントライトはフランスのラファブライト (LAFABLIGHT)
崖からキャンティレバーでせり出しているので、腰壁はH1700mm × W300mmの梁となっている。外断熱でt50mmのスタイロが入っている分ふかされて、樹脂モルタルの仕上げ。
下に見える駐車場も敷地で、高低差は8m。
LDKを見返す。奥に向かって壁が右に2枚、左に1枚ずれながら並ぶ。
左手、造り付けのベンチは7mあり、奥でテレビ台にもなり、向かい合う位置にソファが置かれる予定。ベンチの下には間接照明が仕込まれている。
壁に寄り添うように、主寝室、子供室、水回りの箱が並ぶ構成。左手に子ども2人の子供室で突き当たりがファミリークローゼットと続く。
主寝室は(子供室も)控え目な開口と籠もるような雰囲気で、開放的なLDKに対してメリハリを付けた。
天井を下げ、上部はロフトになっている。
玄関前。ミニマルなデザインは基本的に施主の要望だ。
ウォークインクローゼット。服飾関係の仕事をされていて手持ちの服が豊富な施主のために、天井まで届きそうな三段のハンガーパイプを設えた。
コンクリート型枠のパネルを横張りにして、内装のラワンもぴったりそれに合わせて張られている。
クローゼットから見返す。手前の子供室の上と、主寝室の上にロフトの開口が見える。
水回り。こちらも小さなピクチャーウィンドウで控え目な採光とシンプルな内装だ。
稲山貴則さん
「初めて敷地を訪れた際に、道路から約8mの高低差のある敷地の平坦なところまで登ってきた時に見えた眺望を、なんとかして建築を建てることで獲得できないかという思いを強く持ちながら計画を進めました。アクロバットな敷地に合わせた構造や崖絡みの法規に正面からぶつかり、とにかく建築を建てるということがこんなにも大変なのかと身を持って感じた現場でした。」
断面図
てっきり杭基礎が打たれているかと思いきや、ベタ基礎で “置かれている” だけだ。
地盤が硬すぎて杭が打てなかったこともあったそうで、重量配分を後方(左)に寄せ成立させている。
平面図
【山の根の躯体】
Frame on Yamanone
設計・監理:稲山貴則建築設計事務所
構造設計:建築構造研究所
施工:大同工業

用途:一戸建て住宅
構造・規模:RC造、平屋建
敷地面積:495.03 ㎡
延床面積:93.80 ㎡

Posted by Neoplus Sixten Inc.

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