丹波山村新庁舎

NHA | Naoki Hashimoto Architects
15. 6月 2023
photo: Makoto Yoshida, Neoplus Sixten Inc.
丹波山村(たばやまむら)は山梨県の北東部に位置し、奥多摩駅からバスで1時間程要する山の中。村の97%が森林で、丹波川を中心としたわずかな平地に約530人が暮らす、離島を除く関東で一番人口の少ない自治体だ。
旧庁舎は築50年を経過し耐震性の点で建て替えが必要だった。新庁舎に求められたのは、人々の生活のよりどころとなる場所であること。そして、土砂崩れをたびたび経験してきたこの山間で、安全な拠点となること。
決して大きくはない庁舎だが、この小さな村で新しい庁舎をつくることは、村の未来をかけた大きな事業だった。
(photo: Makoto Yoshida)
 
敷地は既存庁舎から500mほど離れた場所。当初同じ敷地で建て替えを検討したが、かつて「丹波宿」として栄えた、青梅街道(国道411号)に面した場所に新庁舎を建て替え、それををきっかけとして村に賑わいを取り戻そうとの思いからこの場所となった。
(photo: Makoto Yoshida)
デザインビルド方式のプロポーザルに、NHAは太陽工業のJVとして参加した。
プロポーザルでNHAが提案したのは、村を取り囲む山々と、村の生命線となってきた街道という、この土地ならではの地形と歴史をそのまま建物の構えに生かすことだった。
北側に山を背負い、街道に接する敷地。山の等高線に平行するラインでRC造の堅牢な基壇を作り、木造と鉄骨造のハイブリッド架構は街道と平行して架けることで、平面的には構造がずれる形だが、山と街道をつなぐ存在として新庁舎の場所性を浮き上がらせた。
(photo: Makoto Yoshida)
山側から見るとずれた平面がよく分かる。また屋根形状も周辺のまち並みに馴染んでいる様子も分かる。
斜面が庁舎のすぐ後ろに迫っているため、本体工事に先立って法面補強工事を行なった。
右手前に少し設備が見えているのはソーラーパネルのもの。建物本体の省エネに加え、ソーラーパネルを設置したことで、省エネ基準である『NearlyZEB』認証を取得し、国から約6600万円の補助を受けている。
(photo: Makoto Yoshida)
街道沿いには膜屋根の軒下空間。ふだんのバスの待合などのほか、村の祭でも活用される。
多くの登山道の拠点の村なので、登山者の利便性を高める設備や仕組みを整備するのはどうだろうか。
(photo: Neoplus Sixten Inc.)
中へ入るとカラマツ集成材ダイナミックな屋根架構が現れる。
(photo: Neoplus Sixten Inc.)
屋根架構は2階の棟まで上るように伸びていく。そして山に直接接するRC造の基壇が、屋根架構とは角度を付け構成されている様子がわかる。
防災拠点ともなる庁舎のRC基壇内には執務室、サーバー室、備蓄倉庫など、庁舎の基幹部分が納められている。
(photo: Neoplus Sixten Inc.)
模型でみると分かりやすい。鉄骨造の柱と桁、そこに木造の登り梁が架かり一つながりの屋根をつくっている。
(photo: Neoplus Sixten Inc.)
庁舎の周囲は全面ガラス張りで、ロビーからは正面の青梅街道がよく見える。
設計者選定後の村民ワークショップでは、この庁舎をどのようにしたいかというだけでなく、この街道(=村)をどう再生するのかということが議論された。このことは小学校でも積極的に取り上げられ、子どもたちも自分にできるこは何なのか常に考えているそうだ。
(photo: Neoplus Sixten Inc.)
東側の待合。丹波⼭の特産品などを紹介する展⽰コーナーもある。
右手の棚が設けられた躯体は、地震時に鉄骨から伝わる水平力を受け地面に伝える構造でもある。
(photo: Neoplus Sixten Inc.)
2階へはエレベーターもあるが、メインはこの山の斜面を削り出したような階段となる。東側外構にも斜面に沿って階段があり、全体として行き止まりのない一筆書きの動線となっている。
(photo: Neoplus Sixten Inc.)
西側の通用口にも水平力を受ける躯体がある。
(photo: Neoplus Sixten Inc.)
階段を上がると大会議室。議場としても使われるが、小さな村の議員は6名だけなので専用の議場とはせず、必要に応じて可動間仕切りを閉じ、議場としても使える。
普段は村民のワークショップ、イベント、子どもの学習スペースなどとして様々に活用していく。
(photo: Neoplus Sixten Inc.)
2階にはこの大会議室のほか、右手の図書コーナー、奥に小会議室。中央RC造の壁の中はトイレや給湯室、エレベーター、階段などが納まる。
(photo: Neoplus Sixten Inc.)
棟にはトップライトが設けられ、換気も可能にしている。
(photo: Neoplus Sixten Inc.)
図書コーナーでは天井が低くなり、鉄骨と木が絡み合う構造がよく見える。この建物は構造がほどんど現しになっているため、仕口や接合部など細かなディテールが丁寧に設計・施工されている。
(photo: Neoplus Sixten Inc.)
図書コーナーから1階ロビーを見る。野地板に貼られているグレーの部材は吸音材で、1、2階で声が反射しながら伝わるのを軽減している。
(photo: Neoplus Sixten Inc.)
小会議室。メインは職員の日常的な会議室で、接客や必要に応じて村民の利用もできる。
(photo: Neoplus Sixten Inc.)
東側の大開口。村の山々が眺められるテラスがあり、そのまま外周に沿ってテラスが連続する。
(photo: Neoplus Sixten Inc.)
夕刻、美しい架構が浮かび上がる。
(photo: Makoto Yoshida)
NHA代表の橋本尚樹さんと、パートナーの増崎陽介さん。
「この庁舎の最大の特徴はワンルーム空間でほとんど区切られた部屋がないことです。このような構成は庁舎においては他に類を見ないものだと思います。庁舎の原型とは村民が自然と集ってしまう『場所』そのものだったのではと考えることから始めました。必ず誰かが居て自然と対話が始まってしまうような場所として、きっと居心地のよい場所が選ばれたはずです。この小さな村にはそういった引力のある場所が必要だと思い、庁舎の原型に帰ったような場を目指しました。」と橋本さん
(photo: Neoplus Sixten Inc.)
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【丹波山村役場庁舎】
設計・監理:NHA | Naoki Hashimoto Architects/橋本尚樹、増崎陽介、成瀬皓太、鈴木将典
構造設計:MOF/松田真也
設備設計:明野設備研究所/高栖巧
照明設計:飯塚千恵里照明設計事務所 
施⼯:太陽⼯業
CM:⼭下PMC
建築主:丹波⼭村

主要用途:庁舎
所在地:⼭梨県北都留郡丹波⼭村2450
URL:www.vill.tabayama.yamanashi.jp

構造:鉄筋コンクリート造⼀部鉄⾻造、⽊造
規模:地上2階建、敷地⾯積3429.33㎡、建築⾯積868.13㎡、延床⾯積1079.02㎡、⾼さ10.300m
建ぺい率:25.31%
容積率:30.27%

Posted by Neoplus Sixten Inc.
 

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