大子町新庁舎
Katsuhiko Endo
19. 八月 2022
All photos Neoplus Sixten Inc.
遠藤克彦建築研究所による茨城県「大子町新庁舎 (だいごまち)」レポート。まちの共用広場。木の温もりを感じる新たな憩いの場がテーマ。天災による敷地変更など紆余曲折を経て4年かけて完成した純木造庁舎。[Daigo Town Hall by Endo Architect and Associates]
2018年6月のプロポーザルで選定。当初敷地は久慈川と押川の合流近くに建つ既存庁舎に隣接した町有地であった。鉄骨造3階建てで基本設計完了後、町長選挙により当選した新町長からの要請(選挙公約)を受け設計を変更。その後実施設計も行い工事費積算を進めていた2019年10月、台風19号によって既存庁舎を含む当該敷地や周辺の町が洪水被害を受けてしまった。今後も洪水の危険があるため予定敷地は中止となり、車で2〜3分離れた高台の、町営研修センター(東京理科大学 旧研修センター)のグラウンドが新しい敷地に決まった。
全幅約114mの庁舎は手前から、〈議会ホール棟〉〈行政棟〉〈倉庫棟〉の3つの棟からなる。
新しくこの高台の敷地に決まったことで設計は一からやり直し、鉄骨造+RC耐震壁で再設計を進めていたが、県から、県産材を使った木造であれば補助金を受けられることとなり、木造+RC耐震壁で再々設計。しかし「純木造」にして欲しいとのことで再々々設計、3回目の基本設計を行った。当初の敷地と合わせて5回の基本設計、2回の実施設計と足かけ4年を要したプロジェクトであった。
正面は東向き。広い敷地の西側に寄せることで、町の中心拠点として市街地や鉄道からも見える位置とした。
開庁は9月20日を予定しており、駐車場はまだ完成していなかった。
議会ホール棟のバス待合スペース。庁舎を訪れると、この象徴的な木架構に出迎えられる格好だ。
外壁はケイミューのSOLIDOで仕上げ、異なるマテリアルで木架構が自立的に存在することを意図した。
〈行政棟〉エントランス前広場。
行政棟のエントランスを入ると圧巻の木架構が目の前に広がる。茨城県産材のみを900㎥も使用するため、設計段階から県の林業組合と調達調整を進めた。
木架構には自然塗料であるリボスを使用し、白とクリアを調合し白木塗装風に仕上げた。
エントランスからすぐ左に〈ふれあいホール〉。大木の木陰に集うようなスペースだ。
数回行われた事前のワークショップで、休庁日にも町民が利用できるスペースを求める声が多く上がり、庁舎内にいくつか取り入れた。
床はコンクリートPC板で、外部からそのまま連続して敷き詰められている。
その先に進むと〈待合ラウンジ〉。奥に見える階段を上がると、町民が気軽に利用できる〈ブックラウンジ〉へ通じる。
振り返って執務スペースと手続きカウンター。この建築では2時間耐火コア区画を適用。区画コアを境に分棟して各棟の面積を3000㎡以下に抑えることで、準耐火建築物として燃え代設計が適用できる純木造を実現。さらにスプリンクラーを設置することで空間を遮る区画壁を減らし、外部から内部まで連続する木架構現しの大空間を成立させた。
執務スペースから。執務スペースはほぼ全てが吹き抜けで、木立の合間で仕事をする雰囲気だ。
柱は3.6m間隔のグリッド上に配され、240角の集成材(燃え代35mm)。方杖は120×210の無垢材、梁は240×360のBP材で構成されている。
所々見える腰壁は耐力壁。方杖でしっかり支えているものの1階足下は補強する必要があるためだが、できるだけ少ない腰壁(中に筋交い)とし、建物内側に大きな耐力壁のない見通しのきく空間を実現。
見上げるとこのように。柱、方杖、トラス梁の関係がよく分かる。構造設計担当の佐藤淳さんによると、「方杖を含めて一つの柱と捉え、大きなトラス梁とラーメンになっているというイメージ。」
設備は隠蔽せず、メンテナンスを容易にした。
執務スペースの背後はバックヤードで、サーバー室、印刷室、会議室などへ通じる。天井に見える黒い垂れ壁は防煙壁。
ご覧のように見通しのきく動線。
2階へ上がる。無数の方杖が樹冠の世界のように広がる。構造の合理性からくるものではあるが、開かれた1階(町民とのやりとりが多い執務課を配置)と、ある程度閉じた2階(総務課や建設課などの作業課を配置)を形作っている。
2階執務エリア。人が立っている辺りから手前にかけて執務スペースでデスクが並ぶ。窓側が町民利用エリアでカウンターが並ぶ。
中央奥に展望テラスが設けられている。その奥が町長室や応接室。1階も同様であるが、カウンターを動かせばこのような一続きのフロアが現れる。将来的にこの建物の使い方をいかようにも変えられる、可変性と更新性を担保しているのだ。
展望テラス(議会ホール棟)。町民が自然豊かな自身の町を再認識できるような場所で、町の花火大会もよく見える位置だそうだ。
吹き抜けをまたぐ渡り廊下。
渡り廊下から。
〈議会ホール棟〉へ。庁舎全体の延床は5000㎡あるが、前述のように準耐火建築物とするため3000㎡以下に分棟して、行政棟とは渡り廊下で接続されている。手前の広場は様々な催しに利用できるだろう。
ホワイエ。ここも町民が利用できるエリアで、茨城県治山林道協会から寄贈されたヒノキの椅子が並ぶ。
行政棟でも見えるが、窓際では筋交いが見えている。
〈議会ホール棟〉。正面開口の外はバス待合スペースで、ブラインドは取り付けられているものの、物理的に開かれた議場だ。これは遠藤さんが「政は町民に近い場所で行ったほうが良い。」と議会に強く推した設計だそうだ。また、各什器は全て可動するので、他の使い方もできるようになっている。
方杖の傾斜に合わせて壁面ルーバーが設えられている。無柱の大空間とするため、周囲のみ3.6mグリッドの柱とし、14.4mのスパンを飛ばすためトラス梁は先に紹介したものより材が太くなっている。
議会ホールは2階の多目的スペースからも見ることができる。
行政棟にもラウンジがあるが、「こういったフリースペースは町民、特に子どもたちに気軽に居場所として利用して欲しい。公共建築はそうあるべきと思っていつも設計しています。」と遠藤さん。
多目的スペースから。政だけでなく祭りにも利用されるだろうか。
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遠藤克彦さん。「大水害による敷地移転を受けて全面的に再設計となった大子町新庁舎だが、純木造化という主構造の計画変更が、丘の上の地にふさわしい「森の建築」を生み出すきっかけとなった。ここに至るまでの経緯はまさに紆余曲折を経て、というものだが、その時その時の最善手を尽くし続けた結果、林業の町庁舎として、大子町の社会資本を具現化できたと考えている。」
【大子町新庁舎】
設計・監理:遠藤克彦建築研究所
構造設計:佐藤淳構造設計事務所
設備設計:EOS plus
川村設備研究所
積 算:フジキ建築事務所
施 工:株木建設
所在地 :茨城県久慈郡大子町北田気
主要用途:庁舎
構 造:木造 / 準耐火建築物(一部2時間耐火)
階 数:地上2階
敷地面積:30,826.00 ㎡
建築面積:3,927.60 ㎡
延べ面積:5,073.11 ㎡(付帯建物除く)
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設計・監理:遠藤克彦建築研究所
構造設計:佐藤淳構造設計事務所
設備設計:EOS plus
川村設備研究所
積 算:フジキ建築事務所
施 工:株木建設
所在地 :茨城県久慈郡大子町北田気
主要用途:庁舎
構 造:木造 / 準耐火建築物(一部2時間耐火)
階 数:地上2階
敷地面積:30,826.00 ㎡
建築面積:3,927.60 ㎡
延べ面積:5,073.11 ㎡(付帯建物除く)
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