大阪・関西万博 若手建築家による全20施設

2. 6月 2024
EXPO2025
2022年3月、若手建築家 (1980年生まれ以降)を対象に公募されたプロポーザルで、同年8月に選ばれた20組による2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)会場内の休憩所、ポップアップステージ、トイレ、ギャラリー、展示施設、サテライトスタジオの計20施設の設計業務が完了。各施設概要、設計コンセプト及びイメージパースが公開。
評価委員は平田晃久、藤本壮介、吉村靖孝が担当した。選定結果

20施設の公募については、1970年開催の日本万国博覧会(大阪万博)を担当した若手建築家が、その後著名な建築家となったように、大阪・関西万博においても若い世代の活躍、飛躍のきっかけとなるよう、将来が期待される若手建築家を対象に行ったも。
「多様でありながら、ひとつ」という会場デザインコンセプトの下、SDGs(持続可能な開発目標)達成につながる、意欲的かつ大胆な提案により、会場内に個性豊かで魅力的な博覧会施設を創出する。
【休憩所 1】
設計者:大西麻貴 + 百田有希 | 一級建築士事務所o+h
主用途:休憩所、トイレ 
階数:平屋建 
延床面積:830.10 ㎡
構造:膜構造 / 鉄骨造 /木造

人間の五感を使って感じられる、生き物のような建築を計画します。
まるで毛皮のような屋根や、柔らかい布をめくって入る開口部、すべすべで触りたくなる壁など、建築の要素をやわらかく、親しみやすいものにすることで、これからの建築の可能性を広げていく建築です。組み立てが容易で、テント地・毛皮が外皮を覆う円形平面の大屋根空間は、モンゴルのゲルのようでもあり、人々が集う空間は、視覚はもちろん、触覚、聴覚、嗅覚などを触発する空間とすることで、さまざまな人に開かれたインクルーシブな空間となります。
休憩所 1
【休憩所 2】
設計者:工藤 浩平 | 工藤浩平建築設計事務所
主用途:休憩所、トイレ 
階数:2 階建 
延床面積:504.23 ㎡
構造:木造 (建築物)、鉄筋コンクリート造+鉄骨造 (工作物)

休憩所2では、仮設建築物を万博会期の半年間という短い時間の単位で考えるのではなく、人類や地球といった、なにかもっと原始的で壮大なスケールの時間感覚でつくれないかと考えています。
石は、何万年という月日を経て地球が創り出してきた「大地の資源」です。大阪城にも使われた瀬戸内産の石を、会期中は空へと持ち上げ、日除のパーゴラとして活用します。会期後は大阪湾の窪地の改善や海の生き物の居場所となるよう、石を海へと還元し、「海の資産」として未来へと引き継いでいきます。大地、空、海をまたぎながら、何万年も前の過去から、何万年先の未来へと時間をリレーする石の仮設建築物を設計します。
休憩所 2
【休憩所 3】
設計者:山田紗子 | 山田紗子建築設計事務所
主用途:休憩所、トイレ 
階数:2 階建 
延床面積:568.23 ㎡ 
構造 :木造、鉄骨造

静けさの森につづく樹木群と小さくもユニークな人工物とが寄り集まる休憩所。頭上に広がる樹冠や立ち並ぶ幹に、建築物の柱や壁、屋根が寄り添い、心地よい半屋外空間が連続します。
それぞれの植物や建物がもつ色彩と形の連なりがこの場全体に編み込まれていくことで、独自のテキスタイルを伴った生態系が立ち上がっていき、この場が新しい世界の捉え方へ繋がっていくことを目指しています。
休憩所 3
【休憩所 4】
設計者:服部 祐 + 新森 雄大 | 一級建築士事務所 Schenk Hattori + Niimori Jamison
主用途:休憩所、トイレ 
階数:地上 1 階 + 地階 1 
延床面積:248.84 ㎡ 
構造:鉄骨造

私たち人間が築き上げてきた世界は、目覚ましい進歩と引き換えに時に不自然な断絶を生み出し、「向こう側のいのち」への想像力を弱めてきたかもしれません。
「多様さからうまれる、かけがえのないひとつの世界」を守り、さらなる来へと発展していくために、こちらとあちらの断絶を弱めていき、共に生きる感覚をいま一度思い起こすことは重要だと考えます。
本計画は、敷地要件による土の掘削、それを型枠にした鉄筋のパーゴラ屋根でつくられる、半年のあいだ現れる「多様な他者と共にある広場」です。
休憩所 4
【ポップアップステージ(北)】
設計者:佐々木 慧 | axonometric 
主用途:イベント広場
階数:平屋建 
延床面積:108.90 ㎡ 
構造:アルミニウム合金造

森の中のような、木々に囲まれたイベント広場です。
森から切り出した未加工の丸太材を利用して大きな空間をつくることで、新しいかたちの森をつくろうと考えました。ここで利用された木材は万博の会期中に乾燥し、その後加工されて建材として流通して、またどこかで別の建築となりえます。こうして、大きな環境・循環の中に万博を位置付けようと試みています。
【ポップアップステージ 東内】
設計者:桐 圭佑|KIRI ARCHITECTS
主用途:イベント広場 
階数:平屋建 
延床面積:118.69 ㎡ 
構造:鉄骨造、木造

雲は形を変えながら日差しを柔らかく遮り、その下に涼しく心地よい居場所をつくります。ステージと観客席を一体的に覆い、この場所に集う人々の一体感を生み出します。
ひとつとして同じ形の雲はありませんが、どんな形であろうとひと目でそれが雲であるとわかる、海を越え大陸を越えて拡っていくひとつながりの存在です。世界とつながる雲によって、多様でありながらひとつである屋根を実現します。
ポップアップステージ 東内
【ポップアップステージ 東外】
設計者:萬代基介|萬代基介建築設計事務所
主用途:イベント広場 
階数:平屋建 
延床面積:121.44 ㎡ 
構造 :鉄骨造

シンプルかつ最小限のリングフレームによって、最大限の空間をつくるドーム建築です。最小限の部品によるドームは移転再建築が可能となり、会期終了後も使い続けられるサスティナブルな建築を目指しています。外皮は投影可能となっており、建物全体が映像に満たされると、生命体のように変わります。
緑地帯に配置されたドームには穴が穿たれ、木々がドームの中にも生き、人間中心の社会から動植物と共存する社会への象徴となるような建築です。
ポップアップステージ 東外
【ポップアップステージ 西】
設計者:三井 嶺 | 三井嶺建築設計事務所
主用途:イベント広場 
階数:平屋建 
延床面積:87.84 ㎡ 
構造:鉄骨造 一部 木造

ステージは、人が集う目印があれば十分ではないでしょうか。鳥居やストーンヘンジのような門型にみられるように、柱 2 本が人間の作る場の最小単位のひとつです。しかし、それよりもシンプルな状態、例えば梁が一本でも十分ではないかと考えました。
梁は松の皮付き丸太。たった一本でも場をつくる堂々とした力強さと優しさを持ちます。梁の上に載る屋根は形をとどめずシーソーのようにパタパタと動いて緞帳代わりとし、祝祭を盛り上げます。そして、屋根は松葉葺き。会期中に松葉の青々しさを保つためには、多数のボランティアが必要です。皆が参加し当事者となることによって、本来の祝祭のあるべき姿を取り戻せるでしょう。ごく簡素ながら、祝祭の場にふさわしい、新たな原初性をもつ建築を作ります。
ポップアップステージ 西
【トイレ 1】
設計者:井上 岳 + 齋藤直紀 + 中井由梨 + 棗田久美子 | GROUP
主用途:トイレ 
階数:平屋建 
延床面積:81.27 ㎡ 
構造:鉄骨造

万博前の夢洲には、植物や鳥類が棲みつき独自の生態系がつくられていました。そして、夢洲は万博やIR による利用が決まり、更地になりました。本計画では万博期間中に人間が立ち入れない、夢洲につくられていた生態系がアーカイブされた「夢洲の庭」をつくります。利用者は入口から各個室に入り、出口から出ると、アーカイブされた夢洲の生態系を一望できます。
この「夢洲の庭」は万博会場の中で、夢洲の過去現在未来に思いを馳せ、自然と人間の共生のあり方を再考できる場となります。
トイレ 1
トイレ 2
設計者:小林広美 + 大野 宏 + 竹村優里佳 | Studio mikke + Studio on_site + Yurica Design and Architecture
主用途:トイレ 
階数:平屋建 
延床面積:60.54 ㎡ 
構造:鉄骨造 一部 木造

-いのちをもつ庭-
地球の中で数百年もの時間をかけて固まった花崗岩を、400 年程前の人々が大坂城再建のために切り出し、その幾つかが利用されず、切り出した地に残されました。現代、これらの石は大坂城に運ばれなかったことで残念石と呼ばれています。本計画では、長い時を経て自然の力・人の手によってつくられた石を人間と同じように「いのちある存在」として建築に取り込み、いのちをもつ建築・庭をつくります。
建築になった際に生まれる場では、残念石と人間の距離はこれまでよりも少し近いものとなり存在感、表情、手触り、温度など長い時間をかけて紡がれた唯一無二の生命としての力強さが感じられます。同時に 400 年もの前の人の痕跡が残っており、人間の力強さを感じることができます。デジタル技術を利用し石を傷つけることなく、時の記憶を持つそのままの姿で建築に取り込みます。石と大屋根によって生まれる空間は、自然と人のいのちを感じる場となります。
世界が一同に介する場で、歴史的な石を現代の建築の中に存在させ、価値を伝えていくきっかけとなることも願っています。

*今回使わせていただく残念石は 1620 年頃に大野山から切り出され、木津川にストックされていましたが、その後の人々が川の堤防代わりに土留として利用されていたものが 1975 年に発見されました。切り出された位置から何度か動かされ、現在はまたバイパス工事のために多くの残念石が別の場所に移動途中です。大野山付近にて、400 年前の人々が石に残した印が見えるような形でご覧になれますので是非足を運んでみてください。
トイレ 2
【トイレ 3】
設計者:小俣裕亮 | new building office
主用途:トイレ 
階数:平屋建 
延床面積:249.97 ㎡ 
構造:木造 一部 空気膜構造

空気を入れてふくらませる風船のような屋根をもった建築です。
屋根を透過した柔らかい日差しが空間を明るく照らし、屋根自体も風速に応じて風量を変えることで形を変化させながら維持コストを抑えるとともに、気温に応じて膜屋根上部に水を溜めて冷却する仕組みをもった膜屋根を計画しました。
1970 年の大阪万博で様々な実験がなされた空気膜構造を引き継ぎアップデートすることで、環境レスポンシブな構造をつくります。
トイレ 3
【トイレ 4】
設計者:浜田晶則 | 浜田晶則建築設計事務所
主用途:トイレ 
階数:平屋建 
延床面積:138.63 ㎡ 
構造:木造

人、植物、そして環境を土の壁でつなぐ、峡谷のような建築をつくります。自然界の形から抽出した有機的な形態の壁を大型の 3D プリンターで各地域の土地からとれる土を出力し、外壁やランドスケープを構成します。それらを依り代として人々が集まり、自然との共生や循環について考え休息する、現代の人間の巣のような建築像と社会を提示します。
【トイレ 5】
設計者:米澤 隆 | 米澤隆建築設計事務所
主用途:トイレ 
階数:平屋建 
延床面積:246.04 ㎡ 
構造:鉄骨造

本計画では、1970 年の大阪万博にて終焉を迎えたと言われている、建築の「生命性」について思考した建築思想「メタボリズム」を、55 年の時を経てアップデートし、再びこの大阪の地にリバイバルさせます。
積み木のようにユニットを積み重ねることで建築を構築する仕組みにより、閉会後はユニット単位に解体し、公園や広場などに移設し、その場に必要な数や形に組み換えることができる計画です。また、カラフルなユニットを緩く連帯させながら共存させることで、会場デザインコンセプトである「多様でありながら、ひとつ」をデザインします。
【トイレ6】
設計者:隈 翔平 + エルサ・エスコベド | KUMA&ELSA
主用途:トイレ 
階数:平屋建 
延床面積:288.98 ㎡ 
構造:木造

空から雨水が落ちて、蒸発し、雲となり、また雨になる。あるいは、溜まった雨水を人が利用して排水管へと吸い込まれていく。水が循環するそのプロセスの中に、水と人の多様な出会いをつくり、人々は水にまつわる現象を体感します。また、丘のような屋根上をすこし登ると、「静けさの森」を見渡すことができます。視線は自然と水の流れる方向を向き、その先には水によって生かされている森の風景が広がっています。
【トイレ 7】
設計者:鈴木淳平 + 村部塁 + 溝端友輔 | HIGASHIYAMA STUDIO + farm +NOD
主用途:トイレ 
階数:平屋建 
延床面積:95.46 ㎡ 
構造:鉄骨造

3D プリントされた樹脂パネルによってつくられる建築です。外周を湾曲したパネルで覆うことで、周辺の風景や光を不規則に反射させ、蜃気楼のように景色を映し込むことで広場に溶け込むような建築となります。同時にパネルは光を透過させることで、内部を光に満ちた空間にします。パビリオンのような強い象徴性を示す存在ではなく、人や自然環境が寄り添うことで表情が変わるような建築を目指します。
会期後、樹脂パネルは粉砕・再加工され、形を変えながら様々な場面で使われることを想定しています。
【トイレ 8】
設計者:斎藤信吾 + 根本友樹 + 田代夢々 | 斎藤信吾建築設計事務所 + Ateliers Mumu Tashiro
主用途:トイレ 
階数:平屋建 
延床面積:56.19 ㎡ 
構造 :木造 一部 鉄骨造

今を生きる人々は、様々な文化や国籍にルーツがあり、統一された言語はなく、宗教も異なり、体格や身体能力もバラエティーに富み、「こころ」と「からだ」の性や個性も多様化しています。これからは、従来の標準とされた「人間」をモデルに作られた「建築計画」を一度解体し、現代におけるあたらしい「かた」(typology)から建築を考える必要があるのではないでしょうか。
万博のトイレの計画では、視覚・聴覚障がい・車椅子利用者とのワークショップを行い、「こころとからだの性の多様性」にも呼応しながら、様々な国籍や宗教にも配慮した計画を行いました。個性ある異なるもの同士の総体が、へだたりながらもひとつながりの群となる風景を目指します。
トイレ 8
【サテライトスタジオ 東】
設計者:野中 あつみ + 三谷 裕樹 | ナノメートルアーキテクチャー一級建築士事務所
主用途:放送用スタジオ 
階数:平屋建 
延床面積:248.08 ㎡ 
構造:木造

私たちは一般的な建材を扱う合理性を捨て、規格も入手ルートも不鮮明な非合理的な手法で建築をつくります。そんな先の思いやられる設計の足掛かりとなるのは、その木がどのような由来=ストーリー性を持つかということです。
合理的かつハードの側面に価値が見出されがちな木材を非合理的かつソフトの側面に価値を見出し、従来の建築とは真逆のプロセスで建築をつくるのです。ここに集まるのは個性的なバックボーンを持つ、形は歪で土やコケやフジツボ(!?)がついているような、実に厄介で愛らしい木たちです。そんな木たちを主役に据えることで、木たちを、ひいては建築そのものをストーリー性という新たな視点で批評できる価値観を養うことが私たちの挑戦です。
【サテライトスタジオ 西】
設計者:佐藤研吾 | 佐藤研吾建築設計事務所
主用途:放送用スタジオ 
階数:平屋建 
延床面積:144.08 ㎡ 
構造 :木造

サテライトスタジオは、会場内のウォーターワールド沿いに建つテレビ局のスタジオとして使われる施設です。海を眺めることができる大きなガラス窓があり、その窓の正面には小さな広場を設け、訪れた人々の居場所を作ることにも配慮しています。この施設は福島県産材を用いた木造の建築で、基礎も含む大部分の部品が再利用可能で、万博会期後には再び福島県に移築し、地域の拠点施設となる予定です。
【ギャラリー】
設計者:金野千恵 | teco
主用途:展示場 
階数:平屋建 
延床面積: 644.38 ㎡ 
構造:鉄骨造

ギャラリーは、廃棄食材や食品残渣から制作するベジタブルコンクリートを用いて、暮らしの循環における廃棄物から“匂いある建築“を創出します。
このギャラリーの展示空間としては、2つの異なるサイズからなる内部空間と、野菜スケールのピースが集積した大屋根の半屋外空間があり、運用によってその内外を繋ぎながら多様なアート空間が展開される予定です
【展示施設】
設計者:小室 舞 | KOMPAS JAPAN 
主用途:展示場 
階数:平屋建 
延床面積:1,271.94 ㎡ 
構造:鉄骨造、木造

「非中心・離散」「多様でありながら、ひとつ」をテーマとしたこの関西万博の会場構成の特徴を取り入れた展示施設です。
夢洲の湿地帯をイメージした中庭周りにさまざまな展示やイベントが行われるユニット群が並び、それらをつなぐリング状の通路を巡って来訪者は自由に展示を回遊します。緑が絡む蛇篭の壁に光や風が流れて雨水を循環利用し、ランドスケープと建築が密接に結びついた中庭ではこれからの環境空間の実践を試みています。木の葉のような屋根が連なる半屋外空間が散らばり、心地よい森のように緩やかにまとまりながらも多様な場を創出します。
【2025年日本国際博覧会 (大阪・関西万博)】
EXPO 2025 Osaka Kansai, Japan
 
会期:2025年4月13日 – 10月13日 (184日間)
会場:大阪 夢洲 (ゆめしま)
Web:www.expo2025.or.jp

Posted by Neoplus Sixten Inc.

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