「学ぶ、学び舎」東京学芸大学EXPG棟

VUILD
15. 9月 2023
All photos by Neoplus Sixten Inc.
SDレビュー2019入選、U-35 2020発表作品で、4年かけてようやく完成した。

東京学芸大学(以下 学芸大)は教員育成や教育研究に特化した教育学部の大学だが、Society5.0時代に応じた教育とはどのようなものだろうかという議論の中で、“人が今までにないものを生み出す力を養わなければならないのでは”、“それは遊びのようなことの中から生まれてくるのではないか” という回答により、“学び” と “遊び” がシームレスにつながり、生涯にわたって社会の中で新しい価値を創造し続けるような営みを支える環境づくりが必要となり、2018年、学芸大と孫泰蔵が代表のMistletoe株式会社が「一般社団法人 東京学芸大Explayground推進機構」を設立。
小中高生を中心とした市民、大学生、教員、大学職員、行政、企業などが参加者し、未来を引き寄せるような斬新な「やりたいコト・モノ」を実践できる「Explayground推進事業」を展開する。
参加者は主体的に自分の興味関心があるテーマを持ち込み、 共感者と共に「ラボ(LAB)」と呼ばれるプロジェクトを形成する。そしてモノ作りやコト作りなどのラボは現在40近くある。
そのラボ活動の拠点となるのが本プロジェクトだ。
広大な学芸大の敷地の一角が計画地で、2019年先に完成したExplayground 1号棟が南西の角に建つ。
1号棟はExplaygroundの窓口であり、3Dプリンターや小型工作機械、工具なども揃っている。
今回建てられたのはExplaygroundの新たな拠点であり工房の2号棟「学ぶ、学び舎」で、大型の5軸加工機 (CNC) が設置される。
幅約23m、奥行き約13m、天井平均高さ約3.3m(最高軒高約6.5m)。
計画段階ではもっと大きく、両面にガラスが嵌められ空調付きという時期もあったが、作り込まれ既に用意された空間とはせず、道具と余白で試行錯誤しながら働きかけていくことを大事にしたいとの要望から、建物をつくることができる生産設備と最低限の屋根だけにしようということとなった。
屋根だけとはいえ建築的な配慮から、南側(右)は下げて日射を避け、北側は2m高い大開口で外光を取り込んでいる。
近づくと迫力のある造形のディテールが見えてくる。人と比べるとかなりの大きさだということが分かるが、筆者も事前に見たスケッチや写真で想像していたより大きく感じた。
一見CLTの木造のように見えるが実はRC造だ。
この建物は一体どのように造られているかプロセスを説明する。
まずはVUILDの自社工場で、CLTの塊を5軸CNC加工機でパーツごとに削り出していく。
(photo: VUILD)
削り出されていく様子。
この加工機そのもが学芸大の工房に設置されるので、この機械は自分が納まる場所を自分で作っているということになる。
(photo: VUILD)
1/1モックアップ組み立ての様子。
モックアップといっても実際建築に使うものだ。
(photo: VUILD)
構造を担当した佐藤淳さんがホロレンズを着けて確認している。
(photo: VUILD)
工場で作られた963ものパーツを現場で組み上げていく。
(photo: VUILD)
この複雑な形状は職人にとっても初めての経験だろう。
(photo: VUILD)
組み上がってきたところ。
葉脈のようにみえていた部分は凹形状になっていて、その部分に配筋されている様子が分かる。
(photo: VUILD)
梁の配筋後、全体をメッシュ状に配筋する。
(photo: VUILD)
その上に粘性の高いコンクリートを打つ。
スラブ厚が80mmになるように目印のピンが左手前に確認できる。
(photo: VUILD)
打ち上がったコンクリートに防水塗料を塗って、その上にジョリパットの一番荒いものを吹きつけ完成だ。
オーストラリアのウルルのようにも見える。
つまり内側で見えるCLTはコンクリートの型枠であり、内装仕上げでもある。
ではなぜこのような建築としかというと、 “Explayground” の “Ex” は “Extreme” や “Experimental” からきていることから「今までにない建築を。」という依頼があった。さらに「ここに加工機が置かれるなら、その加工機で出来る建築にしたい、かつ増築もできるようにしたい。」との要望もあった。
そこで今後増築していくならば、RC造(耐火建築)である必要がある。RC造であれば木の型枠が必要になるので、型枠の可能性を拡張すれば新しいRC造となるのでは、ということでこの計画となった。
うねる形状は構造的に強度上げることに一役買っている。
確認申請はCLTの無い状態のRC造として通してあるが、強度的にはCLT部だけでも持つそうだ。
「将来的には純木造でやってみたいので、CLTだけでも成立するようにはできている。」と秋吉さん。
奥の半地下部分が電源設備となっていて、その右にこの建物を削り出した5軸CNC加工機が設置され、手前に作業台などが置かれる。
登りたくなる形状だが屋根への登はんは禁止。撮影のため特別に登らせてもらった。
周囲はこの後植林していく予定で、果樹なども植えつつ明治神宮のように時間をかけてゆっくり醸成してゆき、その森に佇む祠の中に最新の工作機械があるというイメージ。
各部断面図 >>ダウンロード
VUILD代表の秋吉浩気さん。
「EX-PLAYの名に相応しいほどに、全力で探求して全力で遊んだ。様々な理由で基本設計をゼロから3度もやったり、見積が予算の3倍で出たりと、実現までの道は非常に険しかった。最終的に4年かかったけど、最後まで諦めず、しぶとく挑めたことが良かったのだと思う。そしてこの挑戦に挑む、強く逞ましい仲間に恵まれたことを嬉しく思う。建築を設計したというよりは、建築を造ったという感じ。これだけ大きな建築をデジタルファブリケーションを駆使して製作できたことは、素直に自信に繋がった。自分達の手で、この建築を作った実感がある。どれだけ大きな建築になっても、手触りが感じられ、自分達が作ったと言えるのではないか。そんな次のステージへの扉を開いてしまった感がある。この300平米の建築で培った知見を基に、今は同様のチーム構成で1000平米の建築に挑戦している。」
【学ぶ、学び舎】
The Learning Architecture for Learners

設計・監理:VUILD
構造設計:佐藤淳構造設計事務所
設備設計:Arup
施⼯:アトリエ海

主要用途:大学
所在地:東京都小金井市貫井北町4-750-2

構造:RC造
規模:地上1階
敷地⾯積:297,471.22 ㎡
建築⾯積:251.28 ㎡
延床⾯積:295.90 ㎡

Posted by Neoplus Sixten Inc.

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