ZONE

Norisada Maeda
10. 6月 2024
All photos Neoplus Sixten Inc.
敷地は都内の住宅地。RC造3階建て、ポリスチレンフォームの外断熱で、樹脂モルタルの仕上げ
ファサードには特徴的な庇やリブが突き出し、建物の外形や窓の輪郭を曖昧にするために様々な操作がされている
敷地間口は比較的狭いが奥行きはかなりある。この奥行きが室内に大きな影響を与えることとなる
粗い表情を見せる塀の内側は駐輪場を兼ねたポーチ。花壇が設けられ、塀越しに頭が出るようなシンボルツリーを植える予定だ
見上げると庇の全貌が見えた。西日を遮るため庇を垂らしながら、建物はもちろん庇自体の明確な形態が現れないように意図されている。施工時、配筋や型枠工事が非常に複雑であったことが想像される
経樋がシルバーに塗装されているのが見える
玄関を入ると二層吹き抜けのLDK。そして荒々しいコンクリートの壁が目を引く
採石場の洞窟を思わせる空間
この住宅のテーマは「ズレ」だ
壁も開口も凸凹があり、コンクリートは鋸目ままの杉板型枠を使用し、目違いやノロ、ジャンカ、アクといった不確定な施工跡(事件)はそのまま残され、レタッチなどの修正は行われていない
杉板は45・90・120・180mm幅を現場でランダムに貼っていった
室内側からも開口に変化を持たせて明確な輪郭が現れないようにされている。サッシュの取り付け位置も前後し、内側にも庇があるなどして複雑な造形だ
この空間にエアコンは似合わないので、輻射熱式冷暖房機で躯体に蓄熱させる方法を選んだ
左の壁は150インチのプロジェクタースクリーン。約5mの天井まであるカーテンを閉めて大画面で映画を楽しむ
カーテンを閉め、照明を点けるとディテールが異なる表情を見せる
キッチンもキャンティレバーのダイニングテーブルもコンクリートで造作した
ナチュラルな陰影で撮影するとこのようになる
作業台やテーブルの天板はさすがに平滑にするため研き出し仕上げ
様々な「ズレ」。輪郭はあらゆる場所でぼかされ、住み手は無意識に感性が刺激される
キッチンの奥へ進む
この住宅のタイトルである「ZONE」は、鉄扉を開けた前庭から玄関、リビング、ダイニングキッチン、そして1階奥、2階、3階まで、奥行きを活かしながら異なる光の入り方、ディテールや空間がズレを伴いスラローム状にゾーンを創り出していることに由来する
1階の奥はクリエイターである施主の創作活動の場だが、決まった場所にとらわれず、様々な雰囲気の場所でアイデアを出したり仕事ができるように望んだ
階段と一体のコンクリートテーブル。施工者にとっても試行錯誤の連続だったそうだ
場所により光の差し込み方も異なる
1階奥からの見返し。籠もるような創作スペースは2層吹き抜け
こちらは1.5層で光が降り注ぐ創作スペース
2階へ
踏面の幅や、鉄筋を使った手摺りも不揃い
2階に複雑な “地形” が現れた
施主はフィギュアや漫画のコレクターでもある。2階は主にそれらのコレクションを並べて愛でるギャラリー空間
反対側から見る。様々なゾーンが奥へ続く
進むとさらに棚が置されフィギュアが並び、左手に小さな籠もりスペースがある
籠もりスペースは天井が低く、中庭に面した漫画を読むスペースだ
吹き抜けに面する場所はバルコニーのようになっていて、ベンチも設えてある半屋外的な空間。建物向かいの緑が借景として望める
よく見ると手摺りがズレて繋がっていない
3階は就寝スペース、クローゼット、水回りとなる
就寝スペースは個室ではなく右手の小上がりの周囲をカーテンで仕切り、マットレスを床置きするそうだ
朝目覚め、正面のピクチャーウィンドウから公園の緑が見える
奥に向かって左手にトイレ、将来設置するエレベーターのスペース、水回りと続く
トイレ。カーブの付いた壁は黒に塗装されている。所々で籠もるスペースは黒い壁に
水回りはこれまで見た空間を否定するかのような全く異なるゾーン
浴室はRCで造作された後、全面FRP防水が施されている
開口の外は2階籠もり部屋に見えた中庭の吹き抜け
広々とした屋上は様々に使える

以下前田紀貞さんによるコンセプトテキスト

建築空間がどのように人の意識を変えてゆくかということだけが、自分の建築への興味であった。
ZONEで感じられる日々の記憶(各場所の空間の印象)はできる限り明確に縁どられることなくザワついているあたかも吃音のようだ。
そのために建築の部位(壁・天井・床)は、所々でズレ、目違いを起こし、突出・陥没する。決して空間の印象、輪郭が明確にならないようボカされながら。
また、コンクリートには “荒々しさを綺麗に演出するような配慮” は避けられ「施工という事件」をありのままに語ってくれるよう放置される。
型枠の木くず、目違い、ノロ、ジャンカ、アク、施工間違え といった空間に付帯する雑味こそ住人の長い生活の中により奥深い熟成した記憶を沈殿させてゆくのだ。小学校の頃、印象的な詩がページの破れと共に想起されるように、施工時の事件はむしろ歓迎されるものとして建築空間の成立に寄与するようになる。
奥行の長い空間3層分を回遊するなかで出現する、各所の “ぼんやりとした空気の質感” が互いに溶け合い重なり合うようにしてZONEでの記憶は長い時間のなかで人の記憶の中に沈殿してゆく。

【ZONE】
設計・管理:前田紀貞+石黒大喜/前田アトリエ都市|建築
構造設計:梅沢建築構造研究所
施工:山菱工務店
用途:一戸建て住宅
構造・規模:RC造 地上3階建て
建築面積:84.69 ㎡
延床面積:170.06 ㎡

Posted by Neoplus Sixten Inc.

このカテゴリ内の他の記事