MC−EN@Akiya Smart Village

Erika Nakagawa
22. 6月 2023
All photos by Neoplus Sixten Inc.
敷地は横須賀の西側、相模湾を一望できる高台の造成地。施主の株式会社モノクロームは、住宅に導入するソーラーパネルとHEMS (Home Energy Management System) を開発・販売する会社。この造成地に自社製品を組み込んだ5棟程度のスマートハウスを建て、"Akiya Smart Village” と呼ぶ住宅群をつくる計画で、その1棟目がこの住宅となる。
左下には能作文徳建築設計事務所+常山未央/mnmが設計を担当している2棟目が工事中。
ソーラーパネルは今までにないもので、この屋根に既に設置されているがお分かりになるだろうか。
屋根一体のソーラーパネル “Roof-1”。ガルバリウム鋼板の縦ハゼ葺きと見分けが付きにくく、 光の当たり方でようやく確認できる。
筆者も中川さんに説明されるまで既に設置されているとは気付かなかったが、言われても地上からは殆ど分からない。より目立たないようにするために上部に葺いてあるガルバリウム鋼板はパネルと同じ色の特注色になっている。
「屋根一体型」と銘打ったソーラーパネルは多くあるが、この製品は本当の意味で違和感ない「一体型」といえよう。
中川事務所には、この新開発のソーラーパネルと、スマートハウスのシステムを最も合理的に生かした住宅のプロトタイプを作って欲しいと依頼された。
実は既に、実験的な一棟を中川事務所で設計しており、近くの別な場所でデータ取りが進行してしている。そのデータを元に、アップデートされた住宅として今回お披露目となった。
ここではもちろんこの絶景を享受できるようにも設計されている。
屋根は3方向に向いておりいずれも片流れ。ここではソーラーパネルは南と西面に装着され、手前の東面には付いていない。外観形状はどの面にソーラーパネルが設置された場合でも対応可能となるよう、屋根から設計した。
右手に見える舗装路が接道で、右下に玄関があるが、取材時はアプローチが未完であったため、、
南側のテラスから中へ。
造成地中央の舗装路は工事車両用の通路で、Village完成時には全体が芝で覆われる予定だそうだ。
内部は水平垂直方向に複雑な凹凸が見られる。
施主から最終的にはオフグリッドを目指したいと要望があった。オール電化のこの家で、多くの電力を消費するのは空調と給湯であるが、給湯は家族住まいとなると劇的に消費量を減らすのは難しい、であれば空調の電力消費をどう抑えるかと考えたとき、高断熱は基本としたうえで、空調機=エアコンの数を減らすこととした。
4人家族の住宅を想定すると、個室やリビングなどどうしても4〜5台エアコンが必要になる。しかしここでは延床面積137㎡ながら個室を取らず、家全体を空気的にワンルームとすることで、エアコンを2台までに絞って2階に設置した。
家中の空気は一つに繋がっているので、夏場は2階から1階に冷気が落ちていき、冬場は1階の床暖房から上昇する暖気とエアコンで賄う。
これらは設備設計担当がシミュレーションで確認したうえでの判断だ。
空気的にワンルームとするために、スキップフロアにして隙間を開ける。隙間を大きく開けるために床を薄くできるよう、120角の柱材を200mmピッチでスノコ状に並べて梁とする。梁を支える壁や柱が出てきてはワンルームになりにくいので、床は屋根から吊る形式とした。
スキップフロアは2階で別な役割もあるので後述する。
1階の各所を見渡すと、キッチンと一体のダイニングは過ごしやすい季節にはテラスと連続した使い方ができそうだ。
個室がないとはいうものの、昨今のワークススタイルを鑑みて、右手にリモートワークスペースだけは設けた。それでも出来るだけワンルーム感を残すためガラスで仕切り、必要に応じて建具のない仕様とすることもできる。
リモートワークスペースの前から。左手が玄関。玄関アプローチにはデッキが張られるそうで、デッキがそのまま中へ連続してくるようなかたち。
大きなLDK空間の凹みに掘込みのソファがあるテレビスペースを設けた。
階段の裏手は水回りとなる。
テレビスペース。L字形にソファーが作り付けられ、テレビを見るもよし、海を眺めるもよしの空間。
水回りは東向きの大きな片流れ屋根の下にあたる。奥は収納で、左の浴室は海から帰ってきてそのままアクセスできるようになっている。
リビングの中央に据え付けられているのが、モノクローム社が開発したHEMS “Home-1”。Roof-1で発電された電気を見える化し、発電量や使用量などをモニタリングすることはもちろんのこと、家中の照明やセキュリティ機器もスマートにコントロールできる。スマートフォンでも同様のことができる。
使われない電気はTESLAの家庭用バッテリーに蓄電される。ちなみに様々なバッテリーを検証した結果、TESLAのものが断トツで高性能だそうだ。
2階へ。屋根の傾斜に沿って上昇していくとスキップするフロアが現れた。
左手はトイレ上の収納。ワンルームとするために天井に接続させないようにしている。
薄い120mmの床はφ16mmのスチールロッド7本で吊り下げられている。(構造は小西泰孝が担当)
左手前や奥の上に見える手摺りには手摺り子を兼ねた棚が造り付けられている。これはまとまった収納スペースを取ろうとすると、どうしても壁ができてしまうので、壁を増やさず収納量を増やす工夫だ。
右手一つ上のフロアは70cm上げてあり、廊下に見える部分に椅子を置いて、左や奥の棚と合わせてスタディスペースとして活用できる。
テレビスペースの上は寝室スペースの凹み。ここから見渡すと至るところに隙間があり、空気が一続きになっている様子が分かる。
エアコンは筆者がいる場所と、正面上の寝室スペースの計2台。
各スペースをスキップさせながら立体的に距離を取って、平面的にも凹凸を付けることで、壁で仕切らずにプライバシーを確保したり距離を取れるように工夫した。
こちらのフロアからは大きなバルコニーに出られる。
そして屋根が多方向に向いていることや、この立体的にも平面的にも凹凸させる形式をプロトタイプ化することで、今後様々な敷地に応じて、家を回転させたり、凹凸を調整したり、屋根面積を変えたりなどして転用できるよう考慮されている。
もう一つ上のフロアも2階となる。さらに小上がりの最上部はパノラマで三方を望むことが出来る見晴台のような絶景スペース。
左に小さいながらバルコニーも設けた。
設計者が部屋名を当ることができないような小さなスペースを、ワンルームだからこそ散りばめられており、時間や状況で、家の中の居場所を選んでいけるような暮らしができるようにした。
中川さんの建築の多くは、内外をいかに連続させボリュームを感じさせないようにするかという設計しているが、ここでは断熱のために外皮をどうするかということが前提となっているので、中川さんとしては特殊な建築となっている。
しかし設計作業では小さな模型によるボリュームスタディではなく、いつものように大きな模型をのぞき込みながら、どこに床を置くか、どこに開口を設け、視線はどこに開いていくかなどのスタディを繰り返す設計手法は変わらなかったという。
中川エリカさんと、担当の堀次宏暢さん。
「スマートハウスにおいてエネルギーを如何に効率的に使うかと考えたときに、我々としてはこのようないびつで一繋がりのワンルームとして形作りました。それが住み手にとっては住み方の自由さに繋げていっていただけたら良いなと考えています。」と中川さん
【MC−EN@Akiya Smart Village】
設計・監理:中川エリカ建築設計事務所
構造設計:小西泰孝建築構造設計
施工:和田工務店
用途:専用住宅
構造規模:木造 地上2階建
敷地面積:241.90 m²
建築面積:101.05 m²
延床面積:137.30 m²

Posted by Neoplus Sixten Inc.
 

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