父子の家

Hiroyuki Unemori
12. 6月 2023
All photos by Neoplus Sixten Inc.
まず訪れて目に入ったのが、西面の2階開口から覗く古そうな架構。当然敢えて見えるようにしているようだが、一体どういうことなのか順に説明していく。
敷地は新旧の住宅が混在するエリア。大工だった施主の父親が建てた母屋と増築された棟、そして作業場であった離れと倉庫が建っていた。その父親が亡くなり、使われなくなった離れと倉庫を利用或いは解体し、施主である息子家族の住宅を建てる計画。
倉庫は鉄骨造で作りがしっかりしていたので、柱梁を残し、ポリカーボネートの波板を架け、屋根付きの明るい庭とした。
右手にあるのは施主の母親が住む母屋で、間の通路に双方の玄関がある。
玄関。隣の母屋と互いに気配を感じ取れる大きな開口。
そして前に目をやると、庭にあったのと同じような鉄骨が見える。
LDK。既存では1階が表の倉庫と連続するような作業場で、資材や道具が溢れていて、2階には住み込みできる居室や台所があった。
その状態で施主からは「3人家族が住む家としてどうするのがいいか。」と新築か改修か含めて提案を求められた。
そこで畝森さんは、既に立派な鉄骨、基礎、土間があり、父親の手仕事の痕跡もあるし、お金をかけて全て更地にして新築するのはもったいないと感じ、あるものを活かした方向でうまくできないか検討を始めた。
その中で既存の架構は強度的に不確かだったので、それに頼らず新しい構造を用いた方が法規的にも問題なく成立するのではということで、構造家とも相談しながら進めた結果、既存のSと木の柱梁を残しながら、それらを構造壁で覆うかたちの建築となった。

つまりこのプロジェクトは改修に見えるが、既存の柱梁は鉛直荷重を少し受け止める程度で構造とはせず、基本的に内装扱いとした木造2階建ての新築ということになる。
大工だった父親の手仕事を残しながら、子(施主)の思いを反映させ新しい住まいへ変容させる “父子の家”。時間を超えた協働が今回のミッションだ。
新設した構造壁で成立しているので、既存はどこを取っても問題はないが、どこを残すかが空間構成上ポイントになった。
施主の希望で傾斜の緩い階段としたが、さらにゆったりとさせ空間に余裕を与える存在に。
下は全て収納で、端にトイレを配置した。
キッチンの後ろは収納や水回り。上はトラス梁の向こうに2階が見えている。
左手の古い柱は既存の土台と基礎に乗っている。外側の新しい構造壁の土台は、既存基礎の外側に抱くように打たれた新しい基礎に乗っている。
天井を剥がすと以前ボヤで焼け焦げた材も出てきた。炭を落とし、これらも建物の記憶としてそのまま継承する。
2階。南側の床壁を剥がし吹き抜けに。西側に家族のスタディスペース。中央のコアに子供室、トイレ、ウォークインクローゼット。東側に主寝室が配置される。
コアが鉄骨の上に神輿のように乗っている恰好が分かる。
こちらが最初の写真で見えた窓の内側。よく見ると窓台やまぐさと思われるものが残っている。
既存と新築の懐をうまく活用している施主家族。
どうしてこうなっているのか?と想像しながら鑑賞すると楽しい。
コアを回り込む。
壁や建具の仕上げはヒノキ合板。
奥の主寝室で見返し。かつての棟木や桁、垂木がそのまま残る。
材もせいも違う梁。張り巡らされた火打ち梁。思うままに造られた痕跡を見て「ものづくりに向かう本質的な自由を感じた。」と畝森さん。
陸屋根の内側に切妻屋根の小屋裏があるような不思議な空間。ベッド天蓋にも見える。
そのままでは使いにくい民家を引き継いだ際、解体か改修の二択が多い中、こういった再生を選択していくことが普及しても良いのではないだろうか。建築家の職能の幅広さを感じさせるプロジェクトだ。

「他人が一度設計したものを、足したり引いたりしばがら自分たちでも設計して、しかしいわゆる新築でもないし、リノベーションでもない、新旧が対立せずに補いながら混在するような住宅を目指しました。但し法規的な整理や、現場で実際の調整など難しい面も多く大変でしたが、今後も同様の依頼があれば色々できることがあるので挑戦してみたいです。」と畝森泰行さん。
【父子の家】
設計・監理:畝森泰行建築設計事務所
構造設計:平岩構造計画
施工:シグマ建設

用途:専用住宅
構造・規模:木造 地上2階建
敷地面積:531.47 ㎡
建築面積:98.91 ㎡
延床面積:150.80 ㎡

Posted by Neoplus Sixten Inc.

このカテゴリ内の他の記事